部下のコンプレックスを「悪化させる」上司の一言5選 劣等感を強みに変えるには?「キレイごとナシ」のマネジメント論(3/4 ページ)

» 2025年08月26日 08時00分 公開
[横山信弘ITmedia]

コンプレックスを原動力に変えた成功者たち

 しかし、コンプレックスは必ずしも弱点ではない。実は多くの成功者が、劣等感を原動力に変えて偉業を成し遂げている。

 松下幸之助氏はその代表例である。小学校4年で中退し、学歴コンプレックスを抱えていたが、「学歴がないからこそ、人から教わることができる」と発想を転換。謙虚に学ぶ姿勢を貫いたことで、パナソニックを世界的企業に育て上げた。

 孫正義氏も同様だ。在日韓国人として差別を受け、極貧の幼少期を過ごした。しかし、15歳の頃に坂本龍馬の伝記を読み、「国籍で苦しむ人々に、人間は皆同じだと証明する」ことを決意。その思いを原動力に、ソフトバンクグループを築き上げた。

 彼らに共通するのは、コンプレックスを否定せず、それを強みに変える力だ。弱点を克服するのではなく、生かす道を切り開いたのである。

コンプレックスを強みに変えるアドラー心理学の「2つの補償」

 では、どうすればコンプレックスを原動力に変えられるのか。私が有効だと考えるのは、アドラー心理学の「補償」理論を活用することだ。

 アドラーは、劣等感には「悪玉」と「善玉」があると説いた。悪い劣等感は、嫉妬や自己卑下を生む。しかし善い劣等感は、成長のエネルギーになると述べている。

 アドラーの言う「補償」には、「直接補償」と「間接補償」の2種類がある。

 「直接補償」は、劣等感を抱いている分野にあえて挑戦し、その克服を目指すことである。例えば、経済的なコンプレックスであれば収入向上に努め、対人スキルに自信がないのであれば、人の何十倍もの努力を積み重ねて克服を図る。

 私の知人の経営者は、滑舌の悪さに強いコンプレックスを持っていた。そのため、40代で落語を学び、話すトレーニングを徹底的に繰り返したことで、今ではほとんどコンプレックスを感じなくなったという。

 「間接補償」は、劣等感を感じる領域以外を伸ばすことを指す。外見のコンプレックスを「直接補償」で解消するのは難しい。そのため、別のスキルの習得や、仕事での成果を重ねて自己肯定感を高めることが「間接補償」である。

 私は学歴コンプレックスがひどく、40歳以降に「今から頑張って勉強し、有名大学へ行こう」と真剣に考えたこともあった。しかし、恒(つね)に学び続けた経験がある人を「恒学歴(こうがくれき)」と呼ぶようにし、自分自身も学び続けることで、コンプレックスを克服した。

 大学には行けなかったが、社会人になって人一倍学び続けたことで、「その方が価値があるに違いない」と思えるようになったのだ。

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