「定時以降は空調が停止」──酷暑の今、熱中症対策がデスクワークでも重要なワケ労働市場の今とミライ(1/3 ページ)

» 2025年08月27日 08時00分 公開
[溝上憲文ITmedia]

 猛暑の中、熱中症で救急搬送される人が増えている。東京都内では8月18日、午後9時までだけで113人が搬送された。東京都監察医務院速報値によると、6月16日から8月16日までに83人が熱中症で死亡し、その数は今も増え続けている。

netsu 提供:ゲッティイメージズ

 熱中症は、高温多湿な環境下で体内の水分および塩分のバランスが崩れ、体温の調整機能が破綻して発症する障害の総称だ。熱中症は仕事中でも当然起こり得る。しかも死亡までにはタイムラグがあり、次のような事例も報告されている。

 「被災者は道路の測量等の業務を行っており、8時頃から測量作業を始めた。11時20分頃、急に気分が悪くなったことから、社用車に乗せられて会社に戻ったうえで水分補給や身体冷却等を行ったが、痙攣(けいれん)したことから救急搬送されたが、発症から18日後に死亡した」(厚生労働省「2024年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」

 発症してもすぐには回復せず、治療期間も長く、最悪死に至るのが熱中症の怖さだ。しかも、仕事中の熱中症による死傷災害は年々増え続けている。

うちは事務職だから熱中症は関係ない、ことはない

 前出の「2024年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、熱中症による死亡者および休業4日以上の業務上疾病者数は、2024年は1257人。2021年の561人から右肩上がりで増加し、統計を取り始めた2005年以降、最多となった。うち死亡者数は31人となり、統計を取り始めた1989年以降では、観測史上1位の猛暑となった2010年の47人に次いで多い。

netsu 職場における熱中症による死傷者数の推移(「2024年職場における熱中症による死傷災害の発生状況」より引用)

 そうした中、厚生労働省は熱中症対策を強化するために、6月1日、事業者に対策を義務付ける罰則付きの改正労働安全衛生規則を施行した。気候変動による猛暑は今後も予想されており、事業者への義務化は熱中症の労働災害(以下、労災)が増加することに対する厚労省の危機感の表れだ。

 厚生労働省労働基準局安全衛生部の担当者も「最大の目的は熱中症死亡者を減らすことだ。昨年亡くなった31人の死亡原因をよく見ると、熱中症のサインが出ており、病院に搬送すれば死に至ることはなく、防げたのではないかという事例も多かった」と語る。

 熱中症といえば、屋外で働く建設業や警備業などがイメージされるが、改正労働安全衛生規則は全ての事業者が対象になる。

 猛暑の中、エアコンが効きにくい工場内で仕事をする人もいる。外回りの営業の人もいれば、取引先の駐車場でエンジンを切った車内でアポイントの時間調整をする人もいる。オフィスの中には終業時間外は空調が停止するビルもある。残業時間中に熱中症に罹患する危険性もあり、事務職や営業職も熱中症と無縁ではない。

 教育研修会社の社長は「社員の講師は、電車を乗り継ぎながら1日約3件の研修で飛び回っているが、講師なのでスーツを着用している。7〜9月の暑い季節は特に大変で、体力的に無理だと悲鳴を上げる社員もいる」と語る。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR