本人に代わり、勤務先に退職の意向を伝える「退職代行サービス」を使って退職する人が増えている。マイナビの調査によると、2020年に「退職代行サービスを利用した人がいた」と回答した企業は16.1%だったが、2024年(1〜6月)は23.2%に増加した。
また、同社が2024年11月に発表した調査によると、社員が退職する際に、退職代行業者から連絡を受けたことがある」と答えた企業は31.0%。上場企業に限定した割合は44.6%だった。業種別ではほとんどの業種が30%前後だが、「小売」は52.9%と突出して高くなっている。
退職代行サービスは企業からも認知されつつある。不動産業の人事担当者は「2年前に初めて退職代行業者から電話を受けたときは驚いた。数年前は考えられなかったが、今は日常になりつつある」と冷静に受け止める。
退職代行依頼は今年もさらに増えそうだ。退職代行業大手のアルバトロスが運営する「モームリ」によると、2024年4月の利用者数は1663人、5月は2107人だった。2025年は4月だけで過去最多の3000人前後になる見込みだという。
退職代行依頼が増える背景は利便性にある。本来、退職する場合は、まず上司に退職の意向を伝え、退職届を提出し、人事部を通じて所定の手続き(貸与物の返還、離職証明書の発行など)を取る必要がある。退職代行事業者は2万〜3万円の手数料を支払えば、本人に代わって「退職の通知」と貸与物の返還などの事後処理をしてくれる。何より上司や同僚、人事に対する退職理由の説明など人間関係の煩わしさがない。
一方で、退職代行サービスを利用する人に対して、「自分の意思を直接伝えて辞める勇気と意思がないのは社会人として問題だ」という批判もある。今後、退職代行の利用が増え続けることは企業社会にどのような影響を及ぼすのか。労働者と企業、双方に与えるメリットとデメリットを検証したい。
まず労働者にとってのメリットはブラック企業からの早期離脱が可能な点だ。退職代行の依頼理由を見ると、労働法規を無視した長時間労働やパワハラ、セクハラ体質の企業に勤務する人も多い。
モームリの発表によると、4月1日の入社式当日に依頼してきた新入社員の理由には「社長が入社式の最中に新卒社員ともめて、みんなの前で怒鳴ったことに加え、廊下に出して『なめてんのか』と説教」(女性・事務関連)というものもある。4月11日には新卒社員が退職理由に「入社から間もなく背後から突き飛ばされる、複数回にわたる長時間の叱責、肩を叩かれながらの詰問」を挙げている。
こうした人格を傷つけるようなパワハラ体質の企業をすぐ辞めるのは当然だろう。モームリ利用者の辞めたい理由で多いのは大きく分けて以下の4つだ。
(1)有給休暇を使わせてもらえない、公休日も仕事がある
(2)サービス残業が多い
(3)パワハラなどのハラスメントを受けた
(4)就業時間外・休日にたびたび会社から連絡がくる
世の中では働き方改革関連法やパワハラ防止法が施行されていても、現実には届いていない職場も少なくない。しかもこうした仕打ちに加えて、人手不足企業ほど執拗に慰留し「辞めたくても、辞めさせない」ブラック企業もある。そこから抜け出すことは労働者にとって大きなメリットだ。加えて、辞めることで企業の職場環境の改善にもつながる効果もあり、日本の企業社会の健全化にも資するだろう。
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