人手不足を背景に中高年層の転職者が増加基調にある。厚生労働省の「令和5年 雇用動向調査結果」(2024年8月27日)によると、40代以上の転職入職率(男性・一般労働者)が2022年よりも増加している。
40〜44歳は5.5%(前年5.4%)、45〜49歳4.9%(同4.6%、50〜54歳4.6%(同4.5%)、55〜59歳5.7%(同5.0%)と増加している。ただし、転職後の賃金は明暗が分かれている。
40〜44歳で賃金が上がった人は41.3%、下がった人は29.3%。45〜49歳も上がった人は37.3%、下がった人は30.4%。それ以外は前職の賃金と変わらない人である。
しかし50〜54歳になると、上がった人34.6%、下がった人34.0%とほぼ拮抗する。55〜59歳は上がった人27.7%、下がった人34.3%と逆転する。
中高年層の求人が多いといっても50歳を過ぎると、賃金が上がる人は3割前後、それ以外は下がるか、変わらない人が多いのが実態だ。
一方、在籍者の中高年の賃金は上がっているのだろうか。労働組合の中央組織の連合が発表した2024年の春闘の賃上げ率は前年比5.10%だった(PDFより)。
また、労働組合のない企業を含む厚生労働省の2024年「賃金引上げ等の実態に関する調査」(2024年10月28日公表)によると、賃上げ率は4.1%だった。
この数値はあくまで平均であり、世代を超えて一律に配分されるわけではない。そして、連合・厚労省ともに年代別の賃上げ率は公表していない。全体の年代別の賃上げ率を公表している厚労省の「賃金構造基本統計調査」は来年に公表されるため、それを待つしかない。
「2023年賃金構造基本統計調査」(2024年3月)の年齢階級別の賃上げ率は、20〜24歳が2.6%、25〜29歳が2.8%(大学卒)であるのに対し、40〜44歳は1.0%、45〜49歳は0.3%、50〜54歳に至ってはマイナス0.3%に落ち込んでいた。
2023年の賃上げ率は連合集計で3.58%、厚労省調査で3.2%だった。初任給引き上げ競争に象徴されるように、企業は賃上げ原資の配分を若年層は厚く、40代以降へは薄くしていることが分かる。
中高年層への賃上げの配分の少ないことは、連合自身も懸念している。連合は「2024年春季生活闘争のまとめ」(2024年7月19日)で、以下のように書いている。
今年の賃上げの配分について、人材確保のために初任給を大幅に引き上げる一方、中高年層への配分を相対的に抑制するなどの傾向もあるものと推測される
連合の賃金政策の担当者は「連合として配分について踏み込んだことはほとんどないがあえて言及した。初任給の回答集計では高卒・大卒ともに約6%と、1991年以来の伸びを示している。全体平均が5.1%の賃上げ率に対し、初任給6%ということは若年層に多く積んで中高年層は相対的に薄くなっていることが想像される」と語る。
人手不足による大幅賃上げといっても、中高年層はその恩恵を受けていないのである。実は50歳前後の中高年層は1993年から2005年に入社した氷河期世代でもある。彼ら・彼女らは、フリーターにならずになんとか就職できても入社後も賃金が上がらない生活を20〜30年送ってきた。そしてようやく大幅賃上げの時代を迎えても、若年層よりも配分が小さいという憂き目に遭っている。
2024年の賃上げは少し明るい兆しもある。内閣府の2024年度の「年次経済財政報告」(経済財政白書)によると、基本給、地域手当、役職手当などを合計した賃金(2024年4〜6月平均)は40代が前年同期比2.7%上昇し、50代も1.0%アップしている(ビッグデータから見た年齢別賃上げ率)。ただし、29歳以下の4.2%、30代の3.6%よりも低く、世代間格差も広がっている。
少しでも賃上げがあることは喜ばしいことだが、物価を上回っていなければ生活は苦しくなるばかりだ。ちなみに2023年の消費者物価上昇率は3.0%だった。実際は多くの中高年層が物価を下回る賃金となっている。
連合総合生活開発研究所(連合総研)の調査(「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート調査(第48回勤労者短観)2024年10月」でも分かる。
1年前と比較した賃金収入の変動幅と物価上昇幅の差について調査したところ、賃金上昇が物価上昇を上回っている人の割合は、20代は8.4%、賃金と物価の上昇幅が同程度の人が21.6%となっている。少なくとも物価に見合う賃金を受け取った人は30.0%もいるのだ。30代は29.7%である。
それに対して40代は物価を上回る賃金をもらった人は9.9%、同程度の人が16.1%。計26.0%にとどまる。50代は物価を上回った人はわずか5.3%、同程度が9.7%、計15.0%にすぎない。物価を下回る賃金しかもらえなかったと回答した40代は59.4%、50代は71.2%に上っている。
賃金が少し上がっても物価上昇に伴う生活苦が襲う。総務省の「家計調査」(2023年)によると、1世帯当たりの消費支出は中高年が最も高く、45〜49歳が1カ月34.2万円、50〜54歳は35.8万円だ(2人以上の世帯)。この世代は修学期の子どもを抱える人も多く、出費が増えていく一方だ。
中高年の受難はそれだけではない。今年に入り、大幅賃上げの一方で、構造改革という名の早期退職者募集が急増している。
東京商工リサーチが発表した、上場企業の「早期・希望退職者募集」実施状況(11月15日時点)によると、募集した企業は53社、対象人員は9219人に上る。前年同期(2915人)の3倍を超え、2023年の1年間で実績(3161人)を上回り、年間1万人を超えるのは確実な状況だ。
そしてリストラのターゲットになっているのが中高年層だ。オムロンの希望退職者募集では「勤続3年以上かつ年齢40歳以上の正社員およびシニア社員」を対象にしている。最近では第一生命ホールディングスが50歳以上の社員を対象に1000人募集している。
リストラをする場合、相対的に賃金が高い中高年層を狙い撃ちにするのは昔も今も変わらないが、今回のリストラでは、今までとは異なっている事情もある。
それは、昨今の大幅な賃上げ圧力への対策だ。東京商工リサーチの4月24日調査でこう述べていた。
「目まぐるしく変化する経済環境のもと、上場企業は事業セグメントの見直しや祖業からの転換を迫られている。こうした動きを反映し、賃金上昇による固定費上昇を抑制するため、構造改革による『早期・希望退職者』募集をさらに加速する可能性が高い」
世間の賃上げ圧力もリストラの要因であると指摘している。しかもその対象になっているのが40〜50代の中高年である。大幅な賃上げといわれても、物価を上回る賃金をもらえず、一方ではリストラのリスクにもさらされている。
希望退職者募集に応募し、転職先を探しても、冒頭で説明したように半数は賃金が下がる可能性もある。日本の中高年社員は今、大きな転機を迎えているといえるかもしれない。
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