地方小都市の百貨店では、郊外型百貨店以外であっても無料駐車場を備えていたり、「1円以上購入で無料」としている店舗が多いことも特徴だ。また「友の会加入者は駐車場無料」などといった会員サービスを展開するケースもみられる。
さまざまな商品・サービスの値上げが話題となる昨今ではあるものの、地方百貨店では無料駐車場を備える郊外型ショッピングセンターに対抗すべく、近年「駐車場料金の値下げ」や「駐車場料金無料/割引サービスの拡充」を実施したところも少なくない。
例えば、山梨県甲府市の中心商店街にある「岡島百貨店」は、2025年4月より「店舗の公式LINE登録で週1回駐車場2時間無料」というサービスを開始している。
実は、地方の百貨店でも昭和末期ごろまでは自社駐車場を設けていないところが少なくなく、各地の商店街ではそうした百貨店来店客の利用を狙った収益事業として、補助金(商店街高度化事業費など)を用いるかたちで商店街共同立体駐車場を設けることが流行した時代もあった。
しかし、自社で駐車場を運営していない百貨店は、駐車場無料サービスの拡充を行えないことが多く、それは「郊外型ショッピングセンターが隆盛する時代」になると客離れにもつながった。
特にマイカーを使う人が多い地方小都市においては、自社駐車場を持たないような百貨店は多くが淘汰されてしまったといえる。
「地方小都市の百貨店」というと「すごく古いレトロな建物がほとんどだろう」と思うかもしれないが、意外にもそうではない。
今回調査した20店舗中、旧耐震の時代(1981年の耐震基準強化前)に建てられたものは(耐震補強済みのものも含めて)3店舗のみであった。ちなみにこの旧耐震の時代に建てられた3店舗も、いずれも2019年以降に相次いで館内の大幅リニューアルをおこなっている。
実は、東日本大震災以降を受けて2013年に改正された「耐震改修促進法」では、百貨店や総合スーパーを含む不特定多数の者が利用する大規模建築物は、耐震診断結果の公表が義務化された。
それ以降は「耐震化できない」ことを理由に閉店する大型店が相次ぐようになっており、例えば佐賀県伊万里市にあった「伊万里玉屋」(佐世保玉屋伊万里支店)は、2014年度の年商が約8億円だったのに対して、耐震補修には3億円以上かかるとして2016年に閉店している。
このように旧耐震の百貨店のうち「耐震化するほどの経営体力がない店舗は、すでにほとんど淘汰されてしまった」と考えていいだろう。
2016年に閉店した「伊万里玉屋」。「耐震費用が年商の半分近くに及ぶ」として撤退を決めた。「地方百貨店」といえば古い建物を想像するかもしれないが、こうした耐震補強も難しいような店舗は殆ど淘汰されている(撮影:若杉優貴)今回調査した百貨店のうち、近年それぞれ異なった形で耐震化を実現させた店舗が2つある。
そのうち1つめの山梨県甲府市の中心商店街に立地する「岡島百貨店」は、3万平方メートル級の巨漢店舗であったが、建物の一部は戦前に建てられており空襲で被災した経験もあるほどで、老朽化が著しかった。
そのため、岡島百貨店は2023年に隣接する(はす向かい)再開発ビルへと移転。面積は4分の1以下となりレストラン街などは廃止されたものの、多くのブランドは新店舗に残留。売り上げは半分弱の落ち込みにとどまり床面積あたりの効率は大きく向上、2024年度も黒字を確保するに至っている。なお、旧店舗には大型マンションが建設される予定で、今後はタワーマンションの住民も隣接する百貨店の顧客となってくれることであろう。
もう一つの例である鹿児島県薩摩川内市の中心商店街に立地する「川内山形屋」も1950年代に建てられた非常に歴史を感じる建物であったが、こちらは古い建物のまま2018年に5階部分を撤去して4階建てに減築。面積は少し狭くなったものの、上層階の重量を減らすことによって耐震化を実現した。
ここまで地方小都市に立地する百貨店の「立地の特徴」や「建物の特徴」について見ていった。現在も営業を続ける地方小都市の百貨店は、意外にも地方百貨店と聞いて想像されるような「市街地立地」「かなり古い建物」という店舗ばかりではないことが分かっていただけただろうか。
次回からはこれを踏まえて、地方小都市にある百貨店のテナントや経営の特徴を見ていきたい。
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