大都市圏の百貨店がにぎわいを見せるなか、地方都市にある百貨店の多くは好調とは言い難く、閉店が相次ぐ状況が続いている。
2025年に入っても、以下のように、閉店や規模の大幅縮小が相次いでいる。
大都市圏ではあるが、今秋には埼玉県上尾市のJR上尾駅に直結する「丸広百貨店上尾店」が百貨店業態を廃し、複合商業ビルへと業態転換する。
しかし、そうしたなか、中小都市であってもさまざまな経営努力を行いながら営業を続けている百貨店は全国各地に存在する。特に近年は、建築費などの高騰により新たな大型再開発が難しくなるなか、百貨店などの古い商業ビルを現代に合ったかたちに刷新して使い続けることが見直されつつある。
今回は、前・中・後編の3回に分けて、全国各地にある「人口20万人以下の地方小都市に立地している百貨店」を調査し、その特徴や営業努力の様子を見ていきたい。
前編では、地方小都市に立地する百貨店の「立地」と「建物の特徴」に焦点を当てる。
都市商業ライター。大分県別府市出身。
熊本大学・広島大学大学院を経て、久留米大学大学院在籍時にまちづくり・商業研究団体「都市商業研究所」に参画。
大型店や商店街でのトレンドを中心に、台湾・アニメ・アイドルなど多様な分野での執筆を行いつつ2021年に博士学位取得。専攻は商業地理学、趣味は地方百貨店と商店街めぐり。
アイコンの似顔絵は歌手・アーティストの三原海さんに描いていただきました。
今回調査対象としたのは、人口20万人以下の地方都市に立地し、現在も営業を続けている百貨店だ。
「地方都市の百貨店」を対象としたため、大都市圏である南関東1都3県(東京・神奈川・千葉・埼玉、ただし神奈川・千葉には調査対象店舗なし)、関西2府1県(大阪・京都・兵庫、ただし京都には調査対象店舗なし)に立地している店舗は調査対象から除外した(ちなみに愛知にも調査対象店舗はない)。
また、調査対象とした百貨店は基本的に「日本百貨店協会に加盟している店舗」のみだが、「(前身を含めて)過去に日本百貨店協会に加盟しており現在も百貨店業態の店舗」「加盟していないもののいわゆる『百貨店向けブランド』が複数出店している百貨店業態の店舗」を含めた。
調査したのは、2025年時点の各店舗の規模や建築年数など「建物の特徴」、そしてテナントをはじめとした「入居施設の特徴」などだ。
本来ならば、調査対象各店の「売り上げ」「従業員数」「入店客数」――などといったデータも欲しいところであるが、各店の均質な数値を得ることができないため、今回の分析には用いていない。中小都市の百貨店は「分店」的な扱いである場合も多く、店舗ごとの売り上げなど、詳しいデータが発表されていないという例が少なくないためだ。
まず各店舗の「立地の特徴」や「建物の特徴」について見ていきたい。
今回、調査対象とした店舗はいずれも人口20万人以下の都市の店舗だが、そのうち人口最小の自治体は「井上百貨店アイシティ21」が立地している長野県山形村の1万人弱(8000人台)。
山形村は長野県松本市(人口23万人)に隣接する自治体であり、井上百貨店も2025年3月まで松本市に本店を構えていたため(現在はアイシティ21が本店)、実質的に松本市の百貨店であるともいえる。
この山形村にある井上百貨店アイシティ21をはじめとして、調査対象とした店舗のうち6店舗は「郊外型百貨店」というべき立地であった。
「郊外型百貨店」というと、東京・ニコタマの高島屋や聖蹟桜ヶ丘の京王百貨店、大阪・千里ニュータウンにある阪急百貨店などを想像するかもしれないが、ここでいう「郊外型百貨店」とは、都市の中心駅や旧来の商店街から離れた「ロードサイド」や「近郊の住宅街」に出店する店舗。多くは中低層の建物に大型の無料駐車場を備える、いわば「一般的なイオンモールのような立地の店舗」を指す。
地方都市はモータリゼーションが進んでいるところが多いゆえの立地であり、これらの郊外立地6店舗はいずれも低層〜中層の建物で無料の自社平面駐車場を備える(平面+立体併設もある)。百貨店直営売り場を核としながらも、大手チェーンのテナントを多く導入するという「郊外型ショッピングセンター」に近い業態だ。
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