高市氏は自民党議員に対し「馬車馬のように働いていただきます」と呼びかけ、「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」と発言した。
この発言について、賛否両論が巻き起こっている。
あくまで高市早苗氏の「個人」の「決意」「覚悟」であり、「捨てろ」と周囲に強要したわけではない。政治家個人の覚悟の表明だ。国難に直面する日本を立て直すため、自らを犠牲にする覚悟。それは一定の評価に値するのではないか。
「馬車馬のように働く」という表現はどうか。こちらも物議を醸している。馬車馬とは、他のことは考えず、ガムシャラになる様子を表す比喩だ。
「人は馬ではない!」
という批判もあったようだが、これはあくまでも比喩。メタファーだ。「猪突猛進」という表現を使ったら、「あなたはイノシシか?」と突っ込むのか。「鶴の一声で」と頼まれたら、「私はツルではない」と応じるのか。
本質からズレたツッコミを入れないほうがいいだろう。
いくら自民党新総裁の発言に一定の理解があったからといって、企業の上司が部下に「ワークライフバランスを捨てろ」と言ってはならない。当然だ。おさらいをしておこう。理由は3つある。
まず第一に、労働基準法の存在だ。働き方改革関連法により、残業時間の上限規制が導入された。月45時間、年360時間が原則である(月45時間を超える残業は年6回まで)。
これを超える労働を強要することはNGである。「ワークライフバランスを捨てろ」という発言は、長時間労働を推奨すると受け取られかねない。
パワーハラスメントに該当する可能性もある。部下の私生活を否定し、仕事だけに専念せよという圧力は、あってはならない。
長時間労働が生産性を下げることは、多くの研究で証明されている。疲労が蓄積すれば、ミスが増える。創造性も低下する。
優秀な人材ほど、バランスの取れた働き方を求める。特に若い世代は、仕事だけでなく自己成長の時間も重視する。
「馬車馬のように働け」と言われたら、優秀な社員から順に退職していくかもしれない。結果として、組織の競争力は低下するだろう。
現代の職場には、さまざまな事情を抱えた社員がいる。子育て中の社員、介護を担う社員、病気と向き合う社員。
全員に同じ働き方を強要することは非現実的だ。それぞれの事情を考えて、最適な働き方を模索すべきだろう。リーダーにはそれが求められる。
これら3つの理由から、上司が部下にワークライフバランスを捨てろと言うことは許されない。時代に逆行する発言だ。むしろ上司の役割は、部下一人一人が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることである。
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