その彼は、28歳のときに営業企画部から営業部へ異動した。
営業企画部では、見込み客を増やすためにイベントを開催したり、Webマーケティングに力を入れてきた。しかし、せっかく見込み客を獲得しても、その後営業がしっかりフォローしないため、まるで成果につながらなかった。
「これなら自分が営業をやったほうがいい」
そう思い、一念発起して営業部への異動を申し出たのだ。
もともと話がうまかった。気配りが上手だと周りから言われていた。「営業向き」だと学生時代からも言われていた。実際にお客さまと話をすると、営業経験の長い先輩よりも会話を盛り上げられた。だから自信があったのだ。営業企画での経験もある。マーケティングの知識もある。これなら絶対に成果を出せる、と……。
しかし現実は甘くなかった。異動して3年がたった今も、期待以上の成果が出ないのだ。いつも商談では盛り上がるのに、である。
「今日の商談、どうだった?」
と先輩に聞かれたら、
「すごく盛り上がりました。感触は良かったです」
と答える。しかし後日「検討した結果、今回は見送らせていただきます」という丁寧なメールが届く。
なぜ、商談が盛り上がっているのに、成果が伴わないのか?
実のところ、会話が盛り上がることと、商談が成功することは、まったく別物だ。ここを混同している営業は驚くほど多い。では、なぜ盛り上がった商談がうまくいかないのか。理由は3つある。
会話が盛り上がると、営業は「うまくいっている」と錯覚する。お客さまも笑顔だし、話も弾んでいる。しかし、それは単なる雑談に過ぎないことが多いのだ。
趣味の話、子どもの話、地元の話で盛り上がっても、肝心の「お客さまが抱えている課題」については、ほとんど触れていない。
本来、商談で明らかにすべきは、お客さまの課題である。これが本質だ。
どんな問題を抱えているのか? 何に困っているのか? どんな未来を実現したいのか? これらを深く掘り下げずに、表面的な会話だけで時間を使ってしまうと、結果的に提案内容がズレてしまうのだ。
商談が盛り上がっているとき、お客さまは本音を語っていない可能性が高い。
人間関係が良好になると、相手を傷つけたくないという心理が働く。だから営業に対しても「いいですね」「検討します」「前向きに考えます」といった社交辞令を口にしてしまう。本当は興味がないのに、断りづらいから曖昧な返事をするのだ。
営業はそれを「脈あり」だと勘違いする。だから「感触は良かった」と上司に報告するのだ。しかし後日、丁重に断られるのだからショックが大きい。ズルズルと引っ張られるから、他の商談に目を向けることもできない。
会話が盛り上がると、営業は饒舌(じょうぜつ)になる。気分が良くなり、どんどん話してしまう。これも問題だ。
「弊社の実績はですね……」「この機能はすごくて……」と、一方的に喋り続ける。しかしこれはよくない。営業が話せば話すほど、お客さまは聞き手に回る。そして聞き手に回ったお客さまは、自分のニーズを語る機会を失うのである。
優秀な営業ほど、「聞く」ことに徹している。自分が話すのは全体の3割程度。残りの7割はお客さまに話してもらう。一方、成約率の低い営業は、自分が7割話している。お客さまの話を聞く時間が圧倒的に足りないのだ。
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