そして(2)が最も重要だ。部下の成長機会を奪ってはいけない。
まだ経験が浅い若手は、仕事を覚えるうえで、どうしても定型業務やマニュアル通りの仕事をすることになる。いわゆる「AIに置換される仕事」だ。営業なら顧客リストの整理、経理なら伝票処理、人事なら勤怠データの入力。こうした単純作業を繰り返すことで、業務の基礎を学んでいく。
しかし最初からうまくいくはずがない。ミスをする。手順を間違える。だからこそ上司や先輩がフィードバックするのだ。
「この顧客分類、間違ってるよ」
「伝票の摘要欄は、もっと具体的に書いて」
「勤怠データは、こういう順番で確認するんだ」
このような指導を通じて、部下は成長する。失敗と修正を繰り返すことで、徐々に難度の高い仕事ができるようになるのだ。やがて「AIに活用される仕事」もこなせるようになる。データ分析の結果を評価したり、AIが作成した提案書を検証したりできるようになるのだ。
ところが、である。これらの単純な業務を部下がAIに任せたらどうなるか。
確かにそのほうが正確だ。ラクでもある。ミスもない。しかし部下は成長しないだろう。失敗する機会を奪われ、フィードバックを受ける経験も積めない。基礎を学ばないまま、いきなり応用に進もうとするようなものだ。
つまり上司には二択しかない。AIに任せるか(上司→AI)、それとも部下に任せるか(上司→部下)だ。
やってはいけないのは、上司が部下に指示し、部下がAIに丸投げする構図である。(上司→部下→AI)は絶対に避けるべきだ。
この構図では、部下は何も学ばない。AIが作った資料をそのまま上司に提出するだけ。失敗もしないし、フィードバックも受けない。成長のプロセスが完全に飛ばされてしまうのだ。
定型業務を経験し、失敗し、学ぶ。この過程を経て初めて、AIが出した分析結果を検証し、その精度を見極められるようになる。この成長プロセスを省略してはいけないのだ。
部下の時間は貴重である。しかしその時間を使って、基礎を学ばせることはもっと貴重だ。上司こそがAIを使いこなし、部下には失敗する機会、成長する機会を与える。これが正しいマネジメントである。
オフィスワーカーには本当の意味での創造的な仕事はほとんどないと考えている。だからこそ、若手社員を「AIに使われる仕事」をできるレベルまで引き上げることが、上司の最大の責務なのである。
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