――事務ミスが組織的な人員不足や業務過多などに起因する場合、会社や市側に責任はないのでしょうか。
佐藤弁護士: 事務ミスが生じる背景には、ミスをした従業員の不注意だけでなく、人員不足による業務過多であったり、十分な指導・研修体制が整っていなかったりと、職場の側の問題が潜んでいることも少なくありません。その他、職場の風通しが悪かったり、ハラスメントが横行していたりすると、相談しづらくなり、ミスが起こりやすい状況が生まれます。
会社としては、事務ミスが生じたとき、従業員への処分ばかりを検討するのではなく、まずミスが生じた経緯を含め、事実確認をすることが大切です。その上で、ミスの原因として考えられることを挙げ、再発防止策を検討します。最も重要なことは、再発防止であり、原因を取り除くために何が必要なのか、具体的に検討し実行することが必要です。
ミスをした従業員への処分を検討する際も、ミスが生じた背景も含め考慮することが大切でしょう。会社側にも大きな問題があり、ミスが引き起こされたようなケースで、過度な罰則主義を持ち出すと、従業員の会社不信を招きますし、モチベーションの低下にもつながりかねません。
――今回の長浜市のような方針を示す際に、法的に求められる注意点を教えてください。
佐藤弁護士: 本件について、長浜市としては、事務ミスに限らず、処分の基準を見直したということであり、「厳罰化」とは捉えていないようです。ただし、職員からすると、ちょっとしたミスでも処分を受けるのではないかと不安に思う人も出てくるかもしれません。処分の恐れがあるとなると、ミスの隠蔽につながる可能性もあります。また、ミスを恐れて、必要以上に確認作業を繰り返すなど、業務効率に影響が出たり、ミスが生じる可能性のある業務を避けたりすることさえ考えられます。
そこで、こうした負の影響を避けるため、処分基準見直しの際は、従業員に対し、新たに処分される対象となり得る行為の例を示し、一定の悪質性ある事案に限って処分対象になることを周知するなど工夫しましょう。
また、事務ミスをしたことをもって、いきなり懲戒処分を検討するのではなく、まずは指導を行い、改善するかどうか見守ることも大切です。何度指導を繰り返しても改まらず、反省もしないなど、一定の悪質性が認められる事案について、軽い懲戒処分から検討するなど、手順を踏むことが重要であり、こうした手続き面も含め、従業員にあらかじめ周知するとよいでしょう。
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