――長浜市の事例は、法的にどう判断されるのでしょうか。
佐藤弁護士: 長浜市ではこれまで、単純な過失による事務ミスについて処分していませんでした。今後は、過失の程度や結果の重大性によって、処分対象になり得るよう、処分の基準を見直したということです。
自治体は、地方公務員法29条に基づき、
に懲戒処分をすることができます。過失による事務ミスであっても、これらの場合に当てはまる可能性があるため、長浜市の処分基準見直し自体は、法的に問題はないと考えられます。
なお、自治体ではなく、会社の場合も、どのような行為を懲戒事由として定め、どのような処分を科すかについては、会社に広い裁量が認められているため、単純な事務ミスであっても、事案に応じて懲戒処分を下すことは可能です。
――事務ミスを理由に懲戒処分を行う際、法的にどのような要件を満たす必要があるのでしょうか。
佐藤弁護士: 単純な事務ミスについては、悪質性が低いため、懲戒処分の対象とはせずに、教育指導したり、人事評価の中で考慮したりするにとどめるべき事案も少なくないと思います。
懲戒処分にする際も、先述したように、処分内容の社会通念上の相当性を確保する必要があり、重過ぎる処分にしないことが重要です。戒告や譴責など、軽めの懲戒処分であれば、会社の裁量の範囲内として、有効な処分になりやすいでしょう。一方、単純な事務ミスを数回したけれど、指導を受け、反省もしているような事案で、減給処分以上の懲戒処分を下せば、重過ぎるとして無効とされる可能性があります。
――単純なヒューマンエラーと、懲戒処分に値する過失はどこで線引きされるのでしょうか。
佐藤弁護士: 従業員のミスがあった場合、教育指導や人事評価の中で考慮するにとどめるか、懲戒処分にするかは、法律で基準が決まっているわけではなく、会社の判断に委ねられます。会社の裁量は広く、社会通念上著しく相当性を欠くような判断でなければ、尊重されるものと考えられます。
会社側は、ミスの内容や同じミスを繰り返しているかどうか、ミス後の指導を受ける姿勢や反省の程度、ミスが業務にもたらした影響の大きさなどを考慮して、処分するか否かについて判断する必要があるでしょう。
――懲戒処分を不服として職員が訴訟を起こした場合、裁判所はどのような点を重視して判断するのでしょうか。
佐藤弁護士: 懲戒処分を下した場合、従業員が処分の有効性を争い、訴訟を起こすことがあります。裁判所は、先述したさまざまな事情を総合的に考慮し、会社の下した懲戒処分が社会通念上相当といえるかどうか、会社の判断が裁量を超えているかどうかを判断します。裁判所が判断する上で、特に「やってしまったミスに見合った処分か」という点は重視されるように思います。
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