一方で、サントリーHDの対応は実に明快かつ迅速であったといえます。
新浪氏は、サントリーの創業家が三顧の礼をもって社外から迎えた初の社長です。また、同HDは新浪氏の社長就任前に、洋酒メーカー・ビーム社を買収していましたが、その扱いに窮していました。新浪氏は、ビーム社のグループ内定着及びシナジー発揮を通じて、大幅な増収増益を実現。業績面でもその伸展に大きく貢献しています。
しかしそのような状況であっても同HDは、疑惑の行動内容を知るや「捜査の結果を待つまでもなく、会長の要職に堪えないと判断した」と事実上の解任を決めました。この判断の早さは、さすがのリスク管理力であったといえるでしょう。
組織の決断力と迅速な対応については、非上場のオーナー系企業であったということと決して無関係ではないでしょう。非上場であったからこそ、一般株主の目を気にすることなく即断、即決できたといえるからです。またオーナー系であるがゆえに、非オーナー系のサラリーマン経営のように、組織決定という大義名分の下に責任回避を腹に忍ばせた議論の綱引きが展開され、時間と労力を無駄に費やすことで結果的にいたずらに信用力を落とすようなこともないのです。
その観点で申し上げると、経済同友会の対応は「寄り合い所帯」であるがゆえ、合議制の名の下で迅速かつ独断的にはものを決められない、非オーナー系サラリーマン組織の縮図のようなものであったかもしれません。大手商社マン出身の新浪氏は、このような組織の特性を知っていたがゆえに、それを逆手にとったのでしょうか。
一連の事情を説明した会見の際には「警察から事情聴取された会長・社長はみんな辞めなきゃいけないのか。そういう事例を絶対につくってはいけない」と、自身の続投をにじませる恫喝(どうかつ)とも思える強い訴えかけをしつつ「進退は会のガバナンスの委ねる」としたわけです。
約1カ月の審議を経てなお理事会では賛否が割れ「会全体の分断を招きかねない状況(岩井睦雄筆頭代表副代表幹事)」を新浪氏が斟酌(しんしゃく)し、ようやく自ら辞任を申し出て一件落着となったのでした。しかし会としては、結論を出せぬまま決着までに約1カ月を要し対応の遅さ、決断力のなさばかりが際立つことに。結果、ガバナンスの弱さを露呈し、今後の政策提言力の低下までもが懸念される状況になってしまいました。新浪氏の地位への執着心が、世にモノ申す経済同友会の弱点を思いがけず浮き彫りにしてしまったのです。
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本当に「第三者」? 企業不祥事でよく見る「第三者委員会」に潜む問題点Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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