では企業はどう対処すればいいのか。Zuoraが示したのが「Compass Framework」(コンパスフレームワーク)だ。AIエージェントの作業範囲と成果の結び付きを2軸で整理し、4つの価格モデルに分類する。エージェント数単位、活動量単位、出力量単位、成果単位――。
ツォ氏は言う。「最も重要なのは、価格は一つに集約できないこと。AIの登場で、さらに価格設定のやり方が多様になる」
実際、大手SaaS企業もAI機能の価格を頻繁に変えている。「未知の要素が多く、コスト構造もはっきりしていない。試し続けるしかない」。ツォ氏の言葉は、正解のない時代をどう生き抜くべきかを示す。
Zuora自身もこの混乱を経験した。かつて月次決算には20日を要し、業務は高度に属人化していた。そこで自社のサブスク管理プラットフォームを徹底活用した結果、月締めを3日間で完了できるまでに改善した。
この変革を通じて見えてきたのは、財務部門の役割転換だ。マット・ドブソン最高会計責任者(CAO)は語る。「経理財務部門のみが収益の全体の流れを可視化できる。収益化基盤を設計できる唯一の存在だ」。財務は今、コンプライアンスを守る立場からビジネスを率いる戦略アドバイザーへの進化を求められている。
ツォ氏は日本市場を特別視している。20年前、日本のSaaS企業はほぼゼロだった。Salesforceなどの米国企業が進出していただけだ。ところが10年ほど前から、freeeやSmartHRといった日本発のSaaS企業が台頭し、急成長を遂げた。ツォ氏は振り返る。「地元のスタートアップが次々と生まれたのを見るのは、本当に刺激的だった」
だが今、日本企業は新たな分岐点に立つ。ツォ氏の警告は率直だ。「AIへの対応が、新興日本SaaS企業にとって最大の課題だ。変われなければ、米国企業に再びアドバンテージを握られてしまう」
ただし、絶望する必要はない。顧客との関係を築き、長く価値を提供し続ける――。サブスクの原則は今も変わらない。
変わるのは実現の仕方だ。AIの登場で顧客の期待値は格段に高まった。より早く、より高度な価値提供が求められる。収益化の方法も月額固定から多様化する。だが根幹にあるのは、あくまで顧客中心の思考だ。ツォ氏は強調する。「AI中心の時代でも、そこは変わらない」
インタビューの最後、ツォ氏はこう語った。「10年、20年前のサブスク経済の導入時と同じような高揚感がある。ちょっと怖いが、エネルギーをもらっている」
そして日本の経営者への言葉をこう締めくくった。「急激な変化を恐れず、楽しみ、前進を」。不確実性の中にこそ、未来を創る機会がある。
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