実はこの争いには、もう一つの戦線がある。中国勢だ。2025年1月のDeepSeekショックを覚えている方も多いだろう。わずか数百万ドルで最先端AIを作り、世界を驚かせた。
DeepSeekとQwenは、米国勢とは全く違う戦い方をしている。彼らはAIモデルの“設計図”を丸ごと公開する「オープンウェイト」という方式をとっている。普通、OpenAIやGoogleはモデルの中身を企業秘密として公開しないが、中国勢は逆で、学習済みデータまで無料で配ってしまう。そのため、誰でもモデルをダウンロードして、自分のPCで動かせるのだ。
しかも性能で劣らない。DeepSeekのV3.1は、オープンウェイトモデルながらLMArenaでGPT-5やGeminiと並ぶ水準にある。
10月、ある実験が行われた。米国のnof1.ai研究所が「AI投資大会」を開いた。6つのAIモデルにそれぞれ1万ドルを渡し、17日間、暗号資産で運用させた。参加者はDeepSeek、Qwenの中国勢2社と、GPT-5、Gemini、Claude、Grokの米国勢4社だ。
結果は衝撃的だった。Qwenが22.32%の利益を出し、DeepSeekも4.89%の黒字で続いた。一方、米国勢は全滅した。GPT-5は-62.66%、Geminiは-30.81%の大赤字である。ClaudeもGrokも赤字で終わった。
なぜこうなったのか。DeepSeekの取引記録を見ると、分散投資と厳格なリスク管理が徹底されていた。市場が下落する前に利益を確定し、上昇の兆しで再び買う。まさにプロ投資家のような振る舞いだった。対照的にGPT-5とGeminiは、理論に忠実すぎた。教科書通りの判断を繰り返し、市場の急変に対応できなかった。
中国勢の狙いはこうだ。オープンウェイト化で自社規格を「デファクトスタンダード」にして開発者を囲い込み、独自の推論技術で実現した「構造的な安さ」を武器に企業を取り込む。
皮肉にも、米国のAIスタートアップの多くが中国製LLMを使っている。シリコンバレーのベンチャー企業が、GPT-5ではなくDeepSeekを組み込んでサービスを作る。理由は単純で、コストが10分の1なら、粗利が何倍にもなるからだ。
OpenAIに毎月数万ドル払うより、DeepSeekを自社サーバで運用したほうがコスト効率が良い。中国市場でも同様だ。比亜迪(BYD)などの自動車メーカーが車載AIに採用し、華為(ファーウェイ)、小米(シャオミ)のスマホにも搭載される。性能は米国最高峰に迫り、コストは大幅に安い。
住信SBI、ランク制度大改定 勝者と敗者がくっきり分かれるワケ
3万円払っても欲しい? ATMでは使えないのに人気沸騰のメタルカード
なぜMetaだけ株価が急落? AIブームの裏で起きた“静かな分岐点”
三井住友カードのクレカ投信積立で“大改悪” 5大ポイント経済圏の最新動向Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング