宅食事業は、コロナ禍で外食を控える動きが強まる中で大きく成長し、現在ではワタミ最大の売り上げ規模を持つ事業となった。宅食業界全体でも売り上げは最大手だ。しかし、コロナ収束後は値上げの影響もあり、売り上げが鈍った。今期に入ってからは値上げをせず、広告予算を積極的に投下したものの、わずかに減収減益となった。
一方で、ワタミは2年かけて新商品を開発。品質と業界最安水準の価格を両立させた「好い日の御膳」を10月6日から提供している。価格は1食450円(ご飯付きは500円)で、ワンコイン以内を実現。6日間コースで、月曜・木曜の週2回配送となる。ターゲットは年金生活の75歳以上の後期高齢者。12品目以上の食材を使い、塩分控えめで栄養バランスにも配慮したメニューだ。全国発売から1カ月で1日当たり2万食を突破し、好調な滑り出しとなっている。
また、糖尿病対策向けの「ワタミdeおいしい健康」(1食690円)も試験的に販売しており、外食ではカバーしにくいニッチ需要にも応える商品を増やしている。これらの商品が順調なため、今期は日販24万食を底として、28万食まで、宅食の販売数を一気に伸ばす方針だ・
農業分野では、サブウェイとの連携により有機野菜の販路が安定し、初の黒字化が見えてきた。昨年から続く「令和のコメ騒動」への対応も万全だ。ワタミグループは元々、北海道で330トンの有機米を生産してきており、この技術を生かして来期には千葉県でのコメ作りを開始する。初めは20ヘクタールの田んぼで生産し、将来的にはグループ内で使用する年間1200トンのコメを100%自給する構想となっている。
全般的に、ワタミは仕入れや物流を見直し、外食・宅食ともに手作りを増やすなど、あらゆる工夫でコスト削減を進めている。また、消費者への安易な値上げを避け、逆に部分的な値下げを行うことで顧客増にもつなげている。
こうした着実な経営基盤を築きながら、ワタミは成長軌道に乗りつつある。居酒屋依存の構造からの脱却に加え、インフレや円安といった外部環境を踏まえながら、掲げる「7%の賃上げを10年続ける」高賃金企業への挑戦が実現できるのか。今後の動きに注目したい。
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
「サブウェイ」「宅食」注力で大胆に“チェンジ” ワタミが進める居酒屋→健康シフト
「サブウェイ」再浮上なるか ベタ惚れしたワタミが全てを賭けるワケCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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