現在、米国を中心にAI開発や運用のための大規模なデータセンター建設ラッシュが続いている。橋本氏は、この莫大なインフラ投資について「過剰投資になる可能性はあるものの、主要プレイヤーは辞められない状況にある」と分析する。
OpenAIなどを筆頭に、現在は兆円規模の赤字を抱えながらも、シェア獲得とインフラ構築のために投資を続けざるを得ないフェーズにあるためだ。
「黒字化よりも普及」を優先する状況は当面続き、技術革新と並行して、いかに赤字を縮小し持続可能性(サステナビリティ)を担保できるかが今後の焦点となる。
こうした数兆円、数十兆円規模の投資を行うグローバル企業に対し、日本企業が「モデル開発」で挑むのは容易ではない。国内でも通信事業者などが独自LLM(大規模言語モデル)の開発を進めているが、数億〜数十億円規模の投資で、真正面からモデル性能のみを競うのは極めて困難である。
資金力で劣る国内ベンダーが「開発」で勝ち筋を見いだすのであれば、特定のドメインに特化するか、あるいは十分な資金調達や支援を得られる体制を築けるかがポイントになる。多くの日本企業にとっては、真正面からの「モデル開発競争」ではなく、自社の強みを生かせる領域を見極める必要があるといえそうだ。
生成AIビジネスは大きく「ファンデーション」(モデル)、「アプリケーション」「データ」の3つのレイヤーに分類できる。現在、多くの企業が取り組んでいるのは「アプリケーション」層での業務効率化や自動化だが、橋本氏は「業務効率化だけでは競合との差別化にならず、企業の成長には直結しにくい」との見解を示している。
競合他社も同じツールを導入すれば、同様に効率化が可能であり、そこに優位性は生まれないためだ。そこで、今後日本企業が最も投資すべき領域として挙げられるのが「データ」である。
DXの進展により、企業には多くのデータが蓄積されているものの、十分に活用されていないのが現状だ。これらのデータを生成AIで構造化・高品質化し、自社独自のビジネス戦略や経営判断に生かすことこそが本質的な勝ち筋となる。
橋本氏は、差別化とROI(投資対効果)は「自社データ×運用」で決まると定義している。ツール導入による効率化は他社も追随できるが、自社独自のデータを蓄積し、それをAIで解析して戦略に落とし込むプロセスは模倣困難なためだ。今後はビジネスに役立つデータを蓄積し、そこから生成AIを用いて戦略を導き出せる企業が競争力を高めていくことになるだろう。
また、データ活用の新たな潮流として「合成データ」(Synthetic Data)にも注目が集まる。これは、AIが生成したデータをAI自身の学習に用いる技術だ。
実データの収集が困難なレアケースや、プライバシー保護の観点で扱いが難しい医療データなどを、AIが生成した「人工的なデータ」で代替することによって、開発コストの削減や新領域への対応が可能になるという。
現時点で日本企業が生成AI活用で成果を上げている領域はどこか。また、生成AIの活用が進み効率化が進むことで雇用への影響はどうなるのか。
RevComm社内でもエンジニアが生成AIを活用しており、実装などの工程で30〜90%以上の生産性向上を実現しているという。従来100人のエンジニアが必要だった開発が、AIの活用により70人で実現可能になるなど、現場のリソース配分が変わりつつあるのは間違いない。橋本氏は「雇用への影響が本格化するのは来年(2026年)以降になるだろう」とし、まずはAI人材やソフトウェア開発の現場から変化が始まるとの見通しを示している。
また、今後は「フィジカルAI」(ロボティクス)も注目すべき領域だ。前段でも触れた「マルチモーダル化」の技術進展は、ロボット分野にも波及するという。テキストだけでなく音声、画像、動画を統合的に扱えるようになったことで、ロボットが視覚や聴覚を持ち、人間と自然に対話する未来が現実味を帯びてきている。
「2026年頃には、見た目や動きだけでなく、高度な対話能力を備えたロボットの分野でイノベーションが起こるだろう」(橋本氏)
開発競争の行方を横目に、日本企業はまず足元の「データ活用」を固めること。ビジネスに役立つデータを蓄積し、生成AIを用いて自社の戦略を支える体制を構築できる企業こそが、今後の市場で優位性を確保することになりそうだ。
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