慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。
2026年1月1日に「改正下請法」が施行される。適用対象の拡大や禁止行為などが追加され、中小企業の取引の改善や利益保護、価格転嫁を目指すものだ。
法改正が間近に迫る一方で、東京商工リサーチが実施した調査によると、法改正への理解や対応では、大企業は「知っており、影響を精査済み」が約7割を占めたが、中小企業は4割強という結果に。また、法改正を知らなかった割合は大企業が7.8%、中小企業は21.4%で、企業規模による理解度の違いが目立つ。
改正下請法が経済に与える影響は多岐にわたり、企業規模を問わず、発注・受注側それぞれが、「なぜ変わるのか」「何が変わるのか」を理解することが大切だ。法改正を目前に控えた今、改正点や注意点を佐藤みのり弁護士に聞いた。
――そもそも下請法とはどういった法律なのでしょうか。
佐藤弁護士: 下請法とは、迅速かつ効果的に下請事業者の保護を図ることを目的とする法律です。 適用対象となる取引に関して、親事業者の義務や禁止行為を定め、違反すると、公正取引委員会や中小企業庁から指導がありました。
また、下請事業者に与える不利益が大きい場合には、公正取引委員会から勧告が行われ、違反行為の是正とともに、違反行為の内容や違反した事業者名の公表などが行われてきました。
――今回の改正の背景や目的を教えてください。
佐藤弁護士: 下請法の改正法である「中小受託取引適正化法」(通称:「取適法」)は、2026年1月1日から施行されます。改正された背景には、近年、急激に労務費や原材料費、エネルギーコストなどが上昇していることがあります。
こうした急激なコスト上昇の中、中小企業をはじめとする事業者が「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、賃上げの原資を確保することが必要であり、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を目指さなくてはなりません。そこで、価格転嫁を阻害し、受注者に負担を押し付ける商慣習を一掃し、取引を適正化するために法改正が行われました。
――改正の主なポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。
佐藤弁護士: 改正の主なポイントは、以下の4つです。
「下請」という言葉には、委託者と受託者との間に上下関係が存在するような語感があることから、法律の名称を「下請法」から「取適法」へと変更しました。法律の名称以外にも、従来の「親事業者」は「委託事業者」に、「下請事業者」は「中小受託事業者」に、「下請代金」は「製造委託等代金」に変更されました。
下請法の適用対象は、製造委託や役務提供委託といった取引の内容と、事業者の資本金の2点によって決められていました。取適法では、適用対象が拡大され、対象となる取引の内容として、新たに「特定運送委託」が追加されました。
また、これまでの資本金基準に加え、従業員数による基準(製造委託などの場合は常時使用する従業員数300人、役務提供委託などの場合は同100人)が新たに追加されます。委託事業者、中小受託事業者が、資本金基準または従業員基準のいずれかの基準を満たす場合、取適法が適用されます。
新たに禁止されたのは、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」と「手形払等の禁止」です。手形払以外の支払手段であっても、支払期日までに代金相当額満額を得ることが困難なものが禁止されます。
これまでは、公正取引委員会や中小企業庁が違反行為に対して指導・助言を行ってきましたが、事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言の権限が付与されます。また、公正取引委員会などの執行機関に申し出たことを理由に、報復措置など不利益な扱いを受けた場合の情報提供先として、事業所管省庁の主務大臣が追加されます。
その他、委託内容の明示に当たっては、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールなどでも可能になり、委託事業者が、書面か電子メールなどか選択できるようになります。また、正当な理由なく、委託事業者が製造委託等代金を減額した場合、減額部分について遅延利息の支払い対象になります。
――今回の改正による企業実務への影響を教えてください。
佐藤弁護士: 適用対象の拡大により、下請法では親事業者に該当していなかったものの、改正後は取適法の委託事業者に該当する企業が出てくるでしょう。特に注意が必要なのはこうした企業であり、改正された部分だけでなく、取適法全体について理解を深めることが求められます。
また、今後は、委託先の従業員数を把握する必要もあり、取引開始前に従業員数の確認を習慣化しましょう。
下請法時代から、法律をよく理解していなかったために、意図せずに違反してしまっていた企業もあったと考えられます。まずは改正された部分を含め、取適法全体を十分に理解した上で、適切に対応することが大切です。
下請法時代から、「発注する物品・役務等に通常支払われる対価(同種または類似品等の市価)に比べて著しく低い代金を不当に設定する行為」は禁じられていました。これからは、価格決定のプロセスにおいて、「協議に応じない一方的な代金決定」が禁止されます。したがって、委託事業者は、価格決定の過程で、適切に情報開示した上で協議するなど、より一層、丁寧な対応が求められます。
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