“静かな解雇”を生む「AI格差」 部下を捨て、AIを選ぶ日が来る?「キレイごとナシ」のマネジメント論(2/5 ページ)

» 2026年01月13日 08時00分 公開
[横山信弘ITmedia]

「静かな退職」から「静かな解雇」へ

 ここ数年、「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が広まった。

 実際に退職するわけではない。給料分以上の仕事はせず、精神的に仕事から距離を置く働き方のことだ。燃え尽き症候群への防衛策として、若者を中心に共感を呼んだ。

 「コーヒーバッジング」という言葉も話題になった。出社義務のあるハイブリッドワーク環境において、オフィスの入館履歴だけを残す行為だ。コーヒーを一杯飲み、同僚と少し雑談したら帰宅する。米Owl Labsの調査によると、ハイブリッド勤務者の約58%がこの行為を行っているという。

 これらは「人手不足」を背景とした、労働者側の交渉力の表れでもあった。

 「辞められたら困るから、強く言えない」

 そんな上司の弱みにつけ込んだ、ささやかな抵抗だったのだ。しかし2025年から2026年にかけて、この前提が崩れつつある。

 「静かな解雇(Quiet Firing)」という表現を聞いたことがあるだろうか?

 静かな解雇は、直接クビにするわけではない。ただし昇進の機会を与えず、重要な会議から外す。責任を減らし、従業員が自ら辞めるように仕向けるという陰湿なやり方だ。

 この静かな解雇と同じようなことが、AIの普及によって加速しているというのだ。しかも、意図的なものではなく、いつの間にかそうなっていることが厄介なのである。

AIエージェントが変えた「仕事の定義」

 2025年以降、AIは「道具」から「同僚」へと進化した。AIエージェントの本格的な普及だ。

 かつてのAIは、人間が指示を出して答えを得る受動的なツールだった。チャットボットに質問すれば、答えが返ってくる。その程度のものだった。

 しかし今のAIエージェントは違う。

 複雑な目標を与えれば、自ら計画を立てる。ツールを使いこなし、マルチステップの業務を自律的に実行する。

 例えば営業の世界では、見込み客のリストアップからメール送信、アポイント調整までを自動で行うAIエージェントが登場している。開発の現場では、コードの生成からデバッグまでを一気通貫で行うAIも珍しくない。

 ガートナーの予測によると、2028年までに日常業務の意思決定の15%以上がAIエージェントによって行われるという。マッキンゼーの調査でも、すでに企業の約3分の1がAIエージェントの実験や導入を開始していると報告されている。

 すると、ここで問題が生じる。

 「静かな退職」をしている従業員は、自分では「最低限の仕事」をこなしているつもりだ。しかし、AIが24時間365日、文句も言わずに高速でタスクを処理する時代において、「最低限」の定義は劇的に変わってしまった。

 かつての「平均的な仕事」は、AIにとっては「数秒で終わるタスク」に過ぎない。

 ただ指示を待つだけの姿勢は、もはや「最低限」すら満たしていないと見なされるのである。

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