「店を始めた最初の数年は365日働いていましたね」
山城さんは、少し苦笑いを浮かべて当時を振り返る。連日、遅い時間まで作業場で過ごすのが日常になっていた。
学生の頃から革製品好き。使い込むほど味わいが増していく革の魅力に取りつかれ、だんだん「自分でお店を持ちたい」と考えるように。那覇市の人気イタリアンレザークラフト店「anshare」で2年間、修行を積んだ後、食品メーカーの会社員を経て独立した。時間の経過とともに色艶が増し、徐々に柔らかくなっていく欧州産のタンニン革にこだわり、パターン(型紙)から起こして一つ一つ丁寧に手作りする。
高品質が評判を呼び、当初からニーズはあった。ただ、経営知識はない。商品づくり自体には強いやりがいを感じていたが、かけた時間と技術が利益に転換されず、どれだけ働いても赤字運営から抜け出すことはできなかった。
気が付くと、開業時に地元銀行から借り入れた運転資金は枯渇寸前になっていた。「また借り入れできませんか?」。担当者に相談すると、経営状況のヒアリングを基に「借り入れをしても、また同じ状況になりますよ」との指摘が返ってきた。
その理由は「感覚でつけていた」という場当たり的な価格設定だ。例えば、小ぶりなショルダーバッグは、現在だと定番商品で1つ約3万円、オーダーメイド商品で1つ4万〜5万円だが、当初はいずれも1万5000円程度。材料費に適当な粗利を上乗せしただけで、製造に要した時間や店舗運営の固定費などは考慮していなかった。
特に「悪い流れの最大の要因はオーダーメイドでした」と振り返る。すでにパターンがあり、ある程度効率的に製造できる定番商品に比べて、オーダーメイド商品は顧客からの聞き取りや一からのパターン製作などでより手間がかかる。品質と希少性に対して、あまりに低価格だったこともあり、注文が殺到したのだ。
オーダーメイド商品の製造に忙殺される日々。それでも利益は出ない。店頭に並ぶ定番商品も充実しないため、ブランド価値も向上しない。根拠を欠いた価格設定が悪循環の根源となっていた。
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