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AIエージェントはコンタクトセンターの未来をどう変える?――AIとCXのエキスパートが語ったこと「コンタクトセンター改革2026 冬」

» 2026年03月06日 07時00分 公開
[織茂洋介ITmedia]

 今日、あらゆる企業のあらゆる部門で「いかにAIを活用するか」がテーマとなっている。しかし一方で、せっかくの技術の進化を意外と顧客メリットとして還元できていない現実がある。その根本にあるのは、組織やデータの分断という根深い問題だ。購入した製品に不具合があってAIチャットで問い合わせたものの解決せず、後日コンタクトセンターに電話で問い合わせをしたところ、一から症状を説明することになりストレスを感じた――などという経験がある人は少なくないだろう。

 「分断された顧客体験(CX)という課題を超える鍵になるのがAIエージェントだ。今後は顧客と企業の間に介在したAIエージェントを軸にCXの在り方が再構築されていく」

 そう語るのは、AICX協会で代表理事を務める小栗伸氏だ。AICX協会はコンタクトセンターのみならず社会シミュレーションや医療など多岐にわたる分野でAIエージェントの社会実装を進めている。

 AIエージェントは顧客理解と価値提供にどう貢献するのか。アイティメディア主催のオンラインセミナー「コンタクトセンター改革 2026 冬」(1月21日開催)で小栗氏が現状と今後の展望を語った。

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なぜAIエージェントはCXを変えるのか?

小栗氏 AICX協会代表理事の小栗伸氏(写真提供:AICX協会)

 小栗氏は前職のNTTドコモで新規事業プロデューサーとして、音声認識技術を用いて電話業務を自動化する「AI電話サービス」など数多くのAIプロジェクトを手掛けた。国際的なデザイン賞であるIFデザインアワードGoldをはじめ受賞歴も豊富で、AIとCX領域のエキスパートとして知られる。現在は自ら創業したビジョナリーエンジンで生成AI導入支援やコンタクトセンター戦略設計に携わる傍らで、「分断を超え、体験を変える」をミッションに掲げ、AICX協会での活動を展開している。

 「『同じ会社なのに話が通じない』といった顧客目線での体験の分断は、サービス提供企業側のシステムとKPIの分断が生んでいる」と小栗氏は話す。小栗氏によれば、CXとは単に都度の接客で作られるものではなく、「総合的な印象・記憶・評価の蓄積」だ。評価を決定するのは顧客の「期待」と「実態」のギャップであり、特にここで問題になるのが、分断だ。製品・サービスを提供する側の企業において、ブランド認知拡大を担うマーケティング部門は顧客の期待を高めることに注力する。そのこと自体が悪いわけではないが、オペレーション部門の実態が伴わなければ評価は下がる。つまりCXは損なわれる。

 従来、CXの設計と提供は人手主導で行われ、KPI測定も分業モデルを前提に行われていた。AI活用も進んではいたが、その機能は生成ではなく予測と分類が中心であった。一人一人の顧客に最適な体験を提供するという理想は同じである一方、パーソナライズといっても「分類して当てはめる」アプローチにとどまるため、限界があった。大まかなカテゴライズはできても、個人に寄り添ったサービスには至らない。それを本気で提供しようとすれば、全くコストが見合わない状況であった。

部分最適化したAI活用による分断(画像は小栗氏のプレゼン資料より転載、以下同)

 この状況がAIエージェントの台頭で変わろうとしている。小栗氏は「生成AIを頭脳だとするとAIエージェントは脳に加え、手足と段取り力が付いているようなイメージ」と説明する。脳の部分は同じだが、「段取りができるようになる」という点がポイントだ。つまり、知能として「考える」機能に加えて、「決める」「(複数のアプリケーションを横断的に)動かす」を半自律的に実行できるのがAIエージェントということになる。

 AIエージェントが実用化されることで、部門横断で蓄積されたナレッジを統合的に扱い、例外ケースへの対応など、これまで難しかったことが簡単になり、期待と実態のギャップが埋まると考えられる。

顧客体験はAIエージェントを軸に再構築されていく

 技術の革新が顧客の行動を変容させている点も見逃せない。生成AIの普及に伴う「ゼロクリック検索」は企業のWeb担当者やメディアには大きな悩みだが、顧客の利便性の観点で言えば「情報を探す人」から「意図を宣言してAIに任せる人」へのシフトは避けられそうにないだろう。「誰もが専属コンシェルジュを持つ社会になり、提案され、任せると、必要なことがもう勝手に終わってることもあるかもしれない」と、小栗氏は予測する。

 「今後も顧客は情報を探している」という前提でサービスを設計し続ける企業は、競争力を失いかねない。逆に、企業が自社のサービスを横断して個人の過去の行動や思考の文脈を保持できれば、パーソナライズが進み、適切なタイミングでの価値提供が可能になる。

 小栗氏は「顧客が使うAIエージェントが新しい顧客になる」という視点も重要であると付け加えた。そうなると、顧客側のAIエージェントから見たときのサービスの扱いやすさとして「可読性」「構造化」「論理性」など、対人間の顧客とは異なる点が非常に重要になってくる。もちろん、AIエージェントの先にはリアルな顧客がいるので、結局のところ顧客が企業に求める体験価値は今後「いかに自分の文脈で状況を理解してくれ、スムーズに目的を遂行してくれるか」になる。もちろん、全てが一企業で完結できないケースもあるため、顧客が異なる企業が提供する複数のサービスをまたいで何かを完了するための準備も必要だ。

コンタクトセンターを「顧客OS」として再定義せよ

 AI活用を企業主導の合理化と捉えるか顧客起点の合理化と捉えるかによって、その成果は全く違うものとなってくるだろう。ここを間違えると、企業と顧客との接点が希薄になる可能性さえある。AIで顧客の体験が大きく変化する中で、小栗氏は「コンタクトセンターを顧客OSとして再定義する」ことを提案する。

 コンタクトセンターにおいてAIによる自動化が進むほど、実対応を求められたときの現場の人間の判断密度と責任の重要度は増す。故に「タスクの実行と説明責任に関する情報は、本来コンタクトセンターに集約されるべきだ」と小栗氏は考える。顧客目線で情報が集まり、実行と判断の支援をする体制、すなわち顧客OSを司る部門としてコンタクトセンターを捉えるべきだというのだ。

 部門ごとの個別最適化では顧客の全体像が見えなくなり、将来の顧客ニーズも予測できなくなる。顧客の文脈の全体像を見られるようにするためには、強い権限を持った組織が必要だ。この新たなコンタクトセンターは周辺部門と連携して顧客の課題を解決し、全社の改善を促す中枢となる。部門ごとの個別KPIは引き続き必要としつつも、全体的なKPIに対しては、ハブとなるこの組織が実行責任と予算を持ち、部門間の共通言語の策定も行う。

コンタクトセンターは顧客の課題を解決し、全社の改善を促す中枢へ

 コンタクトセンターに寄せられた顧客の声(VOC)をフル活用していく必要もあるだろう。さまざまなデータが大量に集まるようになったときに、それらをどう扱い、どう共有するかを、部門ごとではなくて全社的に再設計する。これまでコストがかかって扱いづらかった非構造化データが段違いに扱いやすくなっているので、その前提で全社的に方針を策定するのが重要だ。

 人の役割の再定義も重要だ。単純にAIを人に置き換えるのではなく、人にはより専門的な仕事をしてもらう仕組みを再設計しなければならない。人にはより専門的な仕事をしてもらうため、リスキリングも含め仕組みを再設計していかなければならない。ここに至るにはもちろん、経営の判断が非常に重要になる。

 AIエージェントを活用した顧客OSとしてのコンタクトセンターを再構築する上で避けるべきポイントとして、小栗氏は以下の4点を指摘する。

  • AIチャットボット導入の目的化
  • センターKPIだけの変更
  • VOCの「報告」化
  • 例外処理の未設計

 AIチャットボット導入が悪いわけではないが、ナレッジと権限が未整備のまま導入しても、顧客の課題を解決できず有人対応に戻ってしまうだけであり、そうなればブランドを毀損してしまう。また、現場の事情を顧みずコンタクトセンターが自部門のためだけに問題解決を追うといった部分最適も避けたい。せっかくのVOCも経営陣や周辺部門がただ聞くだけで終わりにしては何の意味もないので、解決に向けたアクションは必ずセットで考えるべきだ。例外に対応できないAIばかり量産されると、顧客は離反する。

 小栗氏は、顧客OSの実現に向けたKPIの再定義においては「『お客さまの体験は今後こうなっていく』という予測とセットで考えることが重要。この両輪を回していく必要がある」と述べ、講演を締めくくった。

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