製薬大手の第一三共は、5月11日に発表した第6期中期経営計画の展望として「2035年までに『がん治療』領域で世界トップ5の企業になる」という目標を掲げた。同社は、がん細胞を狙い撃ちする抗体薬物複合体(ADC)の「エンハーツ」「ダトロウェイ」などを主力製品とする。
2035年への通過点として、2030年までに「売上収益3兆円以上」「営業利益6000億円以上」「EPS(1株当たり純利益)260円以上」を目指す。
足元の株価は下落傾向にある。同日の中期経営計画説明会に登壇した奥澤宏幸社長兼CEOは「今の株価に満足していない。本来の企業価値に沿った価格に回復させるため、中期経営計画で2030年の数値目標を具体的に案内した。この計画をやり抜く」と決意を示した。
目標達成の秘策の一つが「AI」だ。創薬プロセスにAIを取り入れるほか、CEO直轄の新組織が業務でのAI活用を推進して累計2000億円以上のコスト削減を図る。2035年のビジョンへの青写真をどう描くのか。
第一三共は4月に、解熱鎮痛薬「ロキソニン」などの市販薬事業を扱う子会社の第一三共ヘルスケアをサントリーホールディングスに売却した。がん領域の新薬を軸とした事業体制を構築し、中期経営計画で示した「Be a Global Top 5 Oncology Company by 2035」(2035年までに世界のがん治療企業トップ5になる)という目標に挑む。
「2035年に向けて、世界中の重篤な疾患を持つ患者さんに、がん治療を『治癒』へと一歩近づけられる革新的な治療を提供することを目指す」(奥澤社長)
目標達成に向けて2つの施策を展開する。1つ目の「R&D Excellence」(卓越した研究開発)では、エンハーツなど同社の稼ぎ頭を生んだ創薬技術「BGT」(Breakthrough Generating Technology:画期的医薬品創出技術)の開発を加速させる。ここにAIを活用し、マルチモダリティ(多様な創薬基盤技術)研究を拡大させる計画だ。
並行して、20以上の新薬を上市(販売)して臨床試験データを取得する。将来的にそれぞれ最大2億〜6億ドルの売り上げにつながる見込みだ。エンハーツにも使われているがん治療技術「DXd ADC」は、3兆円以上のピークセールスポテンシャルを持つという。
2つ目の「Operational Excellence」(卓越したオペレーション)では、業務改革によってコスト構造を見直し、利益創出力を強化する。CEO直轄の「Business Transformation組織」を新設して改革を主導。グローバル共通のERP(企業資源計画)ツールで調達プロセスを最適化するほか、AIで業務効率化を推進する。
「定型・非定型業務を対象に、汎用(はんよう)AIと自社専用AIを活用して業務の効率化を図る。従来業務から開放された人的リソースをリスキリングし、能力転換と再配置を組み合わせた人事戦略を実行。全社最適の観点で人材配置を高度化させる」(奥澤社長)
Operational Excellenceによって、2030年までに累計2000億円以上のコストを削減し、資金を成長投資や収益性向上の施策に振り分ける。
看板の一つであったロキソニンを扱う第一三共ヘルスケアを切り離し、がん領域への「選択と集中」を進めた第一三共。AI活用の取り組みを成功させ、世界トップ5のがん治療企業となれるか。
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