「死の谷」に落ちてしまいそうな自治体は、どうすればよいのでしょうか。
仕組みが整っているのに一度止まってしまったプロジェクトを再び動かすには、以下のような「アート的アプローチ」を混ぜてみるのが有効だと筆者は考えます。
「業務効率が20%向上します」といった正論を示すだけでは、現場の職員の心は動きません。「その結果、皆さんが一番大切にしている『住民に寄り添う時間』が毎日1時間増えます」といったストーリーとして語ることが有効です。
2.「余白」と「遊び心」を組み込む完璧すぎるマニュアルは、人を思考停止にする恐れがあります。「ここから先は現場の発想で自由に進めてください」と余白を残す、チャットツール内に趣味のチャンネルを設けるなど、いわゆる「無駄」と思われがちな遊びをあえて許容することで、組織に血が通い、活気が生まれます。
3.「言葉」のデザインを工夫する「DXの推進」「最適化」といった形式的な言葉よりも、その自治体ならではの手触りのある表現に置き換えるのも有効です。例えば「窓口DX」を「待たせない、書かせない、迷わせない、おもてなしプロジェクト」などです。
次に、自治体DXを進めるための組織の在り方について考えてみましょう。
筆者の経験上、サイエンスとアートの両方に長けた人材はごく少数だと感じています。「二刀流の超人」を求めるよりも、注目すべきは「個人に依存しない」体制作りです。
組織全体で、双方の要素を補い合える仕組みを作れば十分です。例えば、それぞれの分野でリーダーとなる職員を配置する方法が考えられます。
そして最も重要なのは、お互いの領域をリスペクトすることです。サイエンス担当が「現場は感情論ばかり」と切り捨てたり、アート担当が「理屈だけでは人は動かない」と揶揄したりしないこと。相互理解のある関係性こそが、組織変革の土台になります。
また、両方できる人がいないという現状は、両者の間に立つ人の価値が、今後圧倒的に高まることを意味しています。
「ロジカルな情報システム部門」と「現場に強い事業部門」が手を取り合うための“橋渡し役”をどう組織内に設けるか――ここにこそ現実的な突破口があると思います。自治体DXを「制度論」だけで終わらせず、「人を動かす営み」として捉え直すことが、これからますます重要になるのではないでしょうか。
次回はAIエージェントにおける、サイエンスとアートの役割分担について考えてみたいと思います。
自治体DXを阻む「三層分離」の壁 国主導のゼロトラスト移行に、現場が抱く“決定的な違和感”
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「職員が激減」に備えよ──2040年問題に向けて「自治体」に残された生存戦略Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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