自治体DX最前線

「正論」では動かない自治体DX 成功事例の横展開がプロジェクトを停滞させる理由(1/3 ページ)

» 2026年05月20日 07時00分 公開
[川口弘行ITmedia]

著者プロフィール:川口弘行(かわぐち・ひろゆき)

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川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。

2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。

2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。

現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com


 こんにちは。「全国の自治体が抱える潜在的な課題を解決すべく、職員が自ら動けるような環境をデジタル技術で整備していく」ことを目指している川口弘行です。

 今回は「自治体DX」をあらためて問い直せればと思います。

 自治体DXに向けた取り組みは、途中でストップしてしまったり、迷走してしまったりといったケースが散見されます。

 自治体の基幹システムを共通化し、国主導のクラウド基盤へ移行する「自治体システム標準化」と「ガバメントクラウド移行」が計画通りに進んでいない例は、過去の記事でも紹介してきました(関連記事1関連記事2)。

 なぜ、自治体DXはうまくいかないのか。筆者はその理由の一つに、制度や仕組みといった要素ばかりが先行し、現場の人間を動かす視点が不足している点があるのではないかと思います。

 本記事では、制度や仕組みなどの論理的な側面を「サイエンス」(科学)、共感やストーリーなどの感情的な側面を「アート」(芸術)として捉え、考察します。

photo01 自治体DXが停滞する理由を「サイエンス」と「アート」の視点で考察する(提供:ゲッティイメージズ、以下同)

自治体DXは「サイエンス」なのか「アート」なのか

 自治体DXとは「サイエンス」(科学)なのでしょうか。それとも「アート」(芸術)なのでしょうか。

 まず、本記事におけるサイエンスとアートの意味を整理します。

 サイエンスとは「自然や社会に存在する現象や事象について、客観的かつ体系的に観察・実験・分析し、普遍的な法則や原理を導き出すための知的活動」です。

 同じ条件下で誰がやっても同じ結果が得られることや、仮説と検証を通じて知識を積み上げていく仕組みを大切にします。属人的な判断や直感よりも、論理的・数値的根拠を重視するのが特徴です。

 一方、アートは「主観的な価値観や感性、創造性によって新しい意味や体験を生み出す営み」と言えます。必ずしも再現性や明確な正解を求めません。同じ素材や情報を基にしても、個々人の視点や発想によって全く異なるアウトプットとなるのが特徴です。

 このように、サイエンスが「誰がやっても同じ結果」に価値を置くとすれば、アートは「誰がやるかによって異なる結果や意味が生まれる」ことに価値を見いだします。アートとは単なる感性論ではなく「人を動かすための共感形成や関係構築の力」を指すとも捉えられるのです。

 その意味では、現在の自治体DXに関する取り組みは、サイエンスとアートの両方の要素を持つことになります。

 標準化や効率化といった「仕組み作り」(=サイエンス)がなければ、公平性や持続性を担保することはできません。一方で実際の現場では、職員の思いや、地域ごとの文脈に応じて、きめ細やかな調整や共感を生む「人間力」(=アート)が不可欠です。

 例えば、業務システムの標準仕様を策定し、横展開するのは論理的な検討の積み重ねです。一方、策定した仕様を現場に根付かせ、納得感のある説明や地域ごとの事情をくみ取って調整するのは、まさにアートの領域です。

 新たな政策を検討するEBPM(証拠に基づく政策立案)など、サイエンスによる施策立案が進む一方、その数字の裏にある住民の歴史や感情を捉え、その声を施策に反映していくことにはアートの視点が重要です。

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