直方市の生成AI活用の特徴は、定型業務の効率化にとどまらない「高度な活用」への挑戦にある。その象徴が「直方市DX人材育成事業」での取り組みだ。
この事業では、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)を実践できる職員の育成を目的に、施策立案のプロセス全体で生成AIを使用。若手・中堅職員のチームが総合戦略の施策を検討する際、市の現状分析や理想の姿の言語化、データ調査・分析の補助、そして具体的な施策立案に至るまで、AIを「思考のパートナー」として活用した。
チーム内で生成AIのチャット履歴を共有しながら施策の精度を高めたほか、経営層への提案資料の作成やプレゼンテーション準備においても、zevoのカスタムテンプレート機能を用いて構成や説明内容をブラッシュアップした。企画から提案までの一連のプロセスでの活用は、単なる作業の時短とは異なる成果につながった。
一方で、現場にはリアルな課題も山積している。課題の1つがRAG(検索拡張生成)を継続的に活用することだ。自治体特有の業務を円滑に回すには庁内データとの連携が不可欠だが、現時点ではRAGの精度に課題があり、運用を中断したものが多いという。2026年度下半期は、このRAGの活用をメインテーマの1つに据え、再挑戦を図る。
もう1つの課題が「利用頻度の偏り」だ。現状、利用回数トップ10のユーザーが全体利用回数の42%を占めるなど、一部のヘビーユーザーが利用を押し上げている実態がある。
「急速にDXやAI活用を進めてきたことへのハレーションもあると考えています。また、zevoは庁内の環境でのみ使用可能なので、一般的な生成AIサービスとは使い勝手が多少異なります。そのため『自分の使いたいツールを使えないのであれば、使わない』といった層も一定数いると予想しています」
こうした課題を突破し、多くの職員が日常的にAIを使い、業務を見直す組織文化へと転換するため、直方市は強力なトップダウン体制を敷いた。
2026年5月、市長自らがCAIO(最高AI責任者)に就任。さらに外部の専門家を「CAIO補佐官」として登用し、市長のリーダーシップと専門家の知見を組み合わせて、生成AI活用をけん引していく構えだ。
品川氏は、直方市が目指す行政DXのゴールを「サービスモデルの変革・転換」と表現する。市役所を、単なる「証明書を発行する場所」「手続きする場所」から「街づくりを考える場所」「暮らしをより豊かにする場所」へと変えることを目指す。
生成AIは、その実現のための強力な武器となる。現場の戸惑いや技術的な壁といった課題から目を背けず、泥臭い工夫とトップの決断で前進を続ける直方市の挑戦は、AI導入の「その先」に向き合うリアルな姿を映し出している。
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