「変革なくして、生き残れない」――西日本でホテルチェーンを展開する川六(高松市)は、この強い危機感のもと、AI活用をはじめとする現場業務のDXに取り組んでいる。
1877年創業の老舗で、2002年に旅館から宿泊特化型のビジネスホテルへ業態を転換。いまは中四国と九州で7店舗を展開する。
同社では2014年からDXに取り組んできた。当時、売り上げは順調に推移していたものの、現場は人力に頼った、いわゆる「根性経営」の状態だったという。年間休日は72日間で有給取得率は30%台――離職率も高く、店舗拡大をしようにも進められずにいた。
このままでは、持続的に事業を成長させることは難しい――そう考えた代表取締役会長の宝田圭一氏は、働く環境を整え、人の力を最大化するためのDXへの第一歩を踏み出した。
管理システムやBIツールの導入、アプリの開発、AI活用など、DXを推し進めた結果、累計3万4169時間もの業務時間削減に成功した。AIの活用事例は9カ月で470件以上に上る。
さらに、経理では、グループ全体の業務をパート従業員1人が週3日勤務・フルリモートで担うほど仕組み化が進んでいるという。
情報処理推進機構(IPA)が2023年に公表した「DX白書」によると、宿泊業におけるDXの取り組み状況は20%未満で、他業種に比べて遅れをとっている状況だ。そんな宿泊業界で、川六はどのようにDXを進めてきたのか。
2014年、DX推進に向けた環境整備を進める中で宝田会長は「多くの『無駄』が見えてきた」と話す。請求書は紙で保管し、売り上げや客数などの数字を、複数の資料に何度も入力していた。とにかく「紙」が多い――それが最初の気付きだったという。
そこで毎月1回、無駄をいかに減らすかを議論する会議をスタートした。紙でのやりとりを極力減らし、手入力を減らす。その繰り返しを12年間、休むことなく続けている。
無駄を減らせば、仕事がしやすくなってサービスが良くなる。サービスが良くなれば顧客の評価と収益が上がり、また職場に投資できる。働きやすくなれば、人が定着する。人の好循環と仕組みの好循環。この2つを回す考え方を、同社は「川六モデル」と名付けた。
こうした改善の考え方は、フロントや客室だけでなく、バックオフィスである経理にも広がっていった。
かつて、同社の経理業務はベテラン課長が1人でほぼ全てを担っていたが、2013年に退職。週3日勤務のパート従業員1人が引き継ぐことになった。翌2014年、全社の環境整備が始まると、川六の経理も変化し、パート従業員が自ら会計ソフトを刷新して伝票を全廃。経理を一気にデジタル化していった。
現在、グループの売り上げは約36億円。その経理を、パート従業員1人が週3日勤務・フルリモートで担っているというから驚きだ。店舗が増えても、稼働時間は増えていない。
支えているのは、自動化の仕組みだ。売り上げ、入出金などのデータは自動で取り込まれ、仕訳も自動で処理される。数字を人が入力し直す工程を極力なくしている。
会計ソフトは2年前、クラウド型のサービスに移行した。移行の決め手は、電子帳簿保存法やインボイス制度への対応が自動で済むことだった。いまは労務のシステムも連携し、従業員に関するデータの統合も進めている。会計で実現した、データが自動で回る状態を、人の領域にも広げるためだ。
「経理を1人で担っている従業員は『この先、店舗がいくら増えても、仕組みが整っているので大丈夫』と話しています。頼もしい限りです」と宝田会長。
経理の次のテーマは、AIエージェントの活用だ。会計ソフトにもAIエージェント機能を搭載する流れがある。それが進めば、自社で特別な仕組みを作らなくても経理の実務をAIに任せられる。宝田会長はこの流れを「願ったりかなったり」と歓迎する。
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