「1円の誤りも許されない、前例踏襲こそが正義」――。企業にとって“守りのとりで”である経理の業務は、ミスが許されず、法令や会計基準への対応も求められる。そのため、変化よりも正確性や継続性が重視され、DXが難しい領域の一つと見なされてきた。
ソニーグループでは、同社の経理業務を担う「グローバル経理センター」による経理DXが実を結んでいる。約2年の間に150を超えるDXプロジェクトを立ち上げ、累積で1万時間以上の業務時間を削減した。
「私たちが目指すのは、単なる業務時間の削減にとどまらず、経理業務にテクノロジーを使って経営に貢献すること。減らした時間は、経営に貢献するための付加価値を生み出す『創出時間』です」
そう話すのは、グローバル経理センター トランスフォーメーションデザイン部の統括部長を務める林尚史さんだ。
会計や税務のプロフェッショナル集団が、いかにしてテクノロジーを武器にしたのか。「次世代ファイナンスオートメーション構想」を策定して変革を進める、同社の経理DXの裏側を聞いた。
グローバル経理センターは、ソニーグループとグループ会社の決算、税務、財務分析、およびグループの連結決算に関する経理業務、グループ各社に対する経理・税務に関する指導・助言といった業務を担っている。
2016年から経理業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション、ロボットによる業務自動化)を導入していた。2021年にスタートした第4次中期経営計画に「テクノロジーを使ってビジネスに貢献する」という内容が組み込まれたことを契機に、経理領域でもDXの取り組みを本格化した。
しかし、当時は「経理DXとは何か」という定義自体が白紙の状態だったという。
「グローバル経理センターには200人超のメンバーがいますが、皆、会計や税務の専門家です。当時はテクノロジーやDXに特化した人材がおらず、それをリードできる組織もありませんでした」(林さん)
そこで、まず着手したのが、推進のための「人」と「組織」の整備だった。経理DXを推進するために必要なスキルを持つ人材を社外から招聘(しょうへい)し、トランスフォーメーションデザイン部を始動した。
トランスフォーメーションデザイン部は「DX推進課」と「人材育成課」で構成される。システム部門出身者やエンジニア、BPR(業務プロセス改革)の知見を持つ人材に加え、「デジタルの力で経理を変えたい」と手を挙げた管理会計出身者など、多様なメンバーが集まっている。
DX推進課 統括課長の木全弘旭さんもチームの立ち上げを担った一人だ。木全さんは、かつてソニーで10年ほど経営管理を経験し、その後コンサルティングファームでデータビジネスなどの知見を培っていた。
「さまざまな専門性を持つメンバーがいることで多角的な視点が生まれています。例えば、経理の専門家だけで構成すると、専門知識が豊富ゆえに既存のやり方にとらわれてしまうこともある。分からないからこそ客観的な視点で切り込める強みがあります」(木全さん)
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