変革の財務経理

調査は減ったのに、追徴は倍増 “AI税務調査”時代に経理が意識すべき2つのポイント(1/3 ページ)

» 2026年02月26日 07時00分 公開
[仲奈々ITmedia]

本稿は、2025年12月9日にインボイス(東京都千代田区)が開催した「経理業務DX最前線サミット 2025 Winter」の内容を基に編集したもの。


 電子帳簿保存法の改正、インボイス制度の導入――。「データ保存の業務が増えただけ」「手入力が減らない」といった実感を持つ企業は少なくないだろう。法令対応は果たしたが、業務効率化やガバナンス強化には至っていないという企業も多いのではないか。

 そんな中、経理部門にとって見過ごせない話題がある。国税庁が税務調査にAIの活用をスタートしたのだ。申告データを横断的に解析することで申告漏れや処理の不整合が従来以上に顕在化しやすくなっている。

 この変化に、企業の経理部門はどう向き合うべきか。

 SKJ総合税理士事務所の袖山喜久造所長が、AI活用が進む税務調査の最新動向と、経理業務DXで企業が取り組むべきポイントを解説する。

photo01 AIで精緻化する税務調査の実態と、企業に問われる経理DXの要点を解説する(提供:ゲッティイメージズ)

国税庁で進むデジタル化 企業との深刻な「格差」も

 国税庁は2023年6月、今後の税務行政の方向性を示す政策文書「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション―税務行政の将来像2023―」を公表した。少子高齢化による職員減少とデジタル化の進展を踏まえ、税務行政全体の在り方を見直す指針だ。

 袖山所長がこの政策文書で特筆すべきと指摘したのが「事業者のデジタル化促進」が新たに加わった点だ。

 現在は多くの法人がe-Tax(電子申告)で税務申告書を提出しており、申告書や決算書、勘定科目内訳書といった情報がデータとして蓄積されている。国税庁はこれを「課税・徴収事務の効率化・高度化」に活用し、AIなどを用いたデータ分析によって調査の精度を高めているという。

 国税庁側のデジタル化は着実に進んでいる。しかし事業者側は、法令対応こそ進めたものの、業務そのもののデジタル化が追いついていない。そのギャップを埋めるために、事業者のデジタル化を政策として後押しする方針が明記されたのだ。

 袖山所長は、近年事業者が対応を迫られた電子帳簿保存法の改正とインボイス制度の2つの導入を例に、現状の課題を指摘した。

 「電子取引のデータを紙に出力して処理しつつ、データも保存する。結果、保存業務だけが増えてしまい、かえって業務効率が悪くなっている企業が多いのです」

 電子帳簿保存法は、電子取引データの保存を義務付け、データ活用を促進することを狙って改正された。しかし、現状ではかえって業務が増えている企業もあるというのだ。

 インボイス制度でも構図は変わらない。デジタルで請求情報をやり取りするデジタルインボイスも普及が進みつつあるが、手入力に頼る企業が依然として多く、データの活用にまでは至っていない。いずれも法令対応はできたが、自社の業務改善にはつながっていないのが実態だ。

 こうした状況を踏まえ、国税庁は企業のデジタル化を促進する当面の目標として3つの施策を掲げている。それが「人の手を介さないデジタルによる取引の普及」「デジタルインボイスの普及促進」「優良電子帳簿の利用促進」だ。デジタル化を通じて企業の業務プロセスの透明性を高めることが狙いだ。

実地調査は減少、それでも追徴は倍増――AIによる精緻化

 国税庁におけるAI活用の具体的な内容を見て行こう。

 袖山所長は国税庁が公表した「法人税の調査実績」を示し、この10年で起きた変化を解説した。

 法人数や申告件数が増加する一方で、実地調査の件数は減少している。平成26事務年度(2014年7月〜2015年6月)には9万5000件だった法人税・消費税の実地調査は、令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)には5万4000件へと減少した。無申告を含む実調率は3.15%から1.56%とほぼ半減している。

 この数字だけを見ると、自社が調査を受ける可能性は低いからと気を抜いてしまう企業もあるのではないか。しかし袖山所長は「注目すべきは件数ではなく中身だ」と指摘した。件数が半減する一方で、1件当たりの調査の精度は大幅に向上しているのだ。

 税務署所管法人(資本金1億円未満の中小法人が中心)の実績を見ると、その変化は明らかだ。1件当たりの申告漏れ所得金額は約530万円から約1013万円へとほぼ倍増。不正1件当たりの所得金額も約260万円から約546万円に膨らんだ。追徴税額も1件当たり約117万円から約256万円と2倍超に増えている。

 なぜ調査件数が減っているにもかかわらず、成果はこれほどまでに上がっているのか。袖山所長は令和4事務年度(2022年7月〜2023年6月)の「AI税務調査選定システム」の導入がその要因だとの見方を示す。

 このシステムでは、3種類のデータを組み合わせて分析する。

 第1に、e-Taxで提出された申告書・決算書・勘定科目内訳書の情報。第2に、税務調査や日常的な取引を通じて国税当局が収集した資料情報。第3に、過去の調査実績や経営者の税務に対する姿勢といったデータベースだ。AIがこれらを統計分析や機械学習で解析し、企業の調査必要度を判定する。

 つまり、従来は各税務署の担当者が管轄内の申告書の中から調査先を選んでいたが、現在はデータをAIが横断的に分析し、リスクの高い企業を抽出できるようになったのだ。さらに「売上除外が想定される。取引先には計上があるが、この会社にはない」「架空の外注費が疑われる」といった具体的な確認項目まで提示するという。

 「AIが確認すべき項目を示してくれるので、調査官はそこに集中できます。例えば、多額の不正が想定される場合は、応援要員を集めて重点的に調査する、などの対策が事前にとれるようになりました」

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