経理部門を取り巻く環境は厳しさを増している。慢性的な人材不足に加え、DXへの対応は待ったなしの状況だ。
さらに追い打ちをかけるのが、2027年4月から強制適用となる「新リース会計基準」である。ROAやROICといった投資家が重視する指標を直撃し、企業価値を左右しかねない重大な経営課題だ。しかし、その影響範囲すら把握できていない企業も少なくない。
こうした中、弁護士ドットコムの電子契約サービス「クラウドサイン」と、ファーストアカウンティングの「経理AIエージェント」が連携を発表した。クラウドサインで契約書を一元管理し、AIが自動でリース判定をする仕組みだ。狙いは、新基準対応の工数を削減し、かつ企業の貸借対照表を最適化することにある。両社が開催した、会見の様子を一部抜粋してお送りする。
多くの日本企業が今、基幹システムの保守期限終了に伴う「2027年問題」への対応に追われている。だが、経理・財務の現場には、それと同等か、あるいはそれ以上に深刻な課題が重くのしかかっている。
ファーストアカウンティングの森啓太郎社長は、この課題の重大性を次のように指摘する。
「最近、経理業界では『もう一つの2027年問題』として、『新リース会計基準』が課題視されています」
新リース会計基準が適用されると、これまでは貸借対照表に計上しない処理であるオフバランスが認められていた不動産や設備のリース契約の中から、計上、つまりオンバランスされるものが出てくる。企業の貸借対照表には「使用権資産」と「リース負債」が計上され、分母となる資産が増大するため、ROAや自己資本比率は悪化する。
これは、実務担当者だけの問題ではない。東京証券取引所がPBR1倍割れの改善を求めるなど、資本コストを意識した経営が強く求められる中、新基準の適用は経営指標を悪化させかねないのだ。
「新基準の適用でROAや自己資本比率がどう変わるのか。社長やCFOは機関投資家や格付機関から説明を求められます。経営指標への影響という点でも、企業にとって非常に重要な制度改正なのです」
森氏はそう強調する。対応を誤り、本来オフバランスにできる契約までオンバランスしてしまえば、企業の格付けが下がり、資金調達コストの上昇を招く恐れすらある。
さらに深刻なのがリソースの問題だ。2027年4月の強制適用に向け、システム改修やデータ整備が必要となるが、企業のITリソースはすでに枯渇気味だ。経営へのインパクトと、限られたリソース。この二重の壁が、日本企業を追い詰めている。
新基準の影響がいかに大きいか。森氏は、同様の基準であるIFRS16(国際財務報告基準)を適用した企業の事例を挙げ、警鐘を鳴らす。
ある大手コンビニエンスストアチェーンでは、適用により使用権資産が、なんと1兆円も増加した。その結果、ROAは2%から1%へと半減し、自己資本比率も約50%低下したという。
「それ以外にも、IFRS16を適用した際に使用権資産が2兆円も増え、ROAは7.5%から5%、自己資本比率も21%から16%に落ち込んだ大手通信会社もありました」
株主や投資家にとって、この大きな数値変動は無視できない。同様の基準である新リース会計基準を2027年4月に強制適用予定の日本の大企業も、このような混乱に直面することが想定される。
適用まで、あと1年と少し。企業の準備は進んでいるのだろうか。ファーストアカウンティングと日本CFO協会が実施した調査結果を受けて、森氏は次のように警鐘を鳴らした。
「新リース会計基準は、確実に財務指標を直撃します。しかし、多くの企業の対応が遅れているのです」
調査によると、約半数の企業が新基準への対応状況について、「未対応」と回答している。さらに深刻なのは、対応の手前で、そもそもROICやROAへの具体的な影響額を把握できていない企業が過半数を占めている点だ。自己資本比率への影響については、54.2%もの企業が「不明」と回答している。
「まだ1年以上あるから」と、表面上は「進捗通り」と回答している企業もある。しかしその内実は「影響額の試算すらできていない」ケースも少なくない。未対応のまま、もしくは対応が不十分なまま期限を迎えるとどうなるか。先の大手コンビニや通信会社のように、事業の実態は変わらないのに、ROAや自己資本比率だけが大きく下がる事態になりかねない。自社がどんなリスクにさらされているのかも気付けないまま、刻一刻と強制適用が迫っている企業が多いのが現状だ。
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