変革の財務経理

新リース会計基準「借手は要確認」7つのポイント 27年4月から適用

» 2024年11月11日 17時00分 公開
[小倉幹生ITmedia]

 2024年9月、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」が、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から公表されました。本稿では「会計基準」と「適用指針」を合わせて、以下「リース会計基準等」と表記します。

 これにより、現行の会計基準である企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」においてオフバランスされている借手のオペレーティング・リース取引についてもオンバランスさせることになりました。

 今回の改正は借手の全てのリースについてオンバランスすることで国際的な比較可能性を高めるものです。本稿では、各企業の資産・負債の金額に重要な影響を与える可能性のある借手の会計処理と表示を中心に解説します。

(注)文中意見にかかる部分は筆者の私見である旨をあらかじめお断りします。

1.なぜ変わった? 新リース会計基準

 国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下、IFRS第16号)およびFASB Accounting Standards CodificationのTopic842「リース」(以下、Topic842)の公表により、国際的な会計基準と国内の会計基準とは、特に負債の認識において違いが生じることになりました。国際的な比較可能性の点で、議論が起こる可能性がありました。

 この状況を踏まえ、ASBJでは2019年3月より、借手の全てのリースについて資産・負債を計上する会計基準の開発に着手し、2023年5月の公開草案の公表などを経て、2024年9月にリース会計基準等が公表されました。

 リース会計基準等は以下の基本的な方針に沿って開発が行われました。

(1)借手の費用配分の方法

 借手のリースの費用配分の方法として、IFRS第16号では、使用権資産に係る減価償却費およびリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデルが採用されています。

 これに対して、Topic842では、従前と同様に減価償却費と金利費用を別個に認識するファイナンス・リースと通常、均等な単一のリース費用を認識するオペレーティング・リースに区分する2区分の会計処理モデルが採用されています。

 この点について、リース会計基準等では、IFRS第16号と同様に「単一の会計処理モデル」によることとされています(図表1参照)。

photo (図表1)借手における会計処理のイメージ(出典:EY新日本。以下、断りのない場合は同様)

 なお、借手のオペレーティング・リースに係る影響のイメージは(図表2)の通りです。

photo (図表2)借手のオペレーティング・リースに係る影響のイメージ

(2)IFRS第16号と整合性を図る程度

  • IFRS第16号の全ての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみを取り入れることにより、簡素で利便性が高いこと
  • IFRSを任意適用して連結財務諸表を作成している企業が、リース会計基準等を個別財務諸表に適用した場合に、IFRS第16号を当該個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる会計基準とすること
  • その上で、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定める、または経過的な措置を定めるなど、実務に配慮した方策を検討すること

 

2.リースの定義およびリースの識別

 リースの定義に関する定めは借手が貸借対照表に計上する資産・負債の範囲を決定するものであることから、国際的な会計基準との整合性を確保するためには、IFRS第16号との整合性の確保が必要だと考えられます。

 このため、リース会計基準等では、リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号の定めと整合させています。

 具体的には「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義されており、契約書上で「リース」という文言がなくても、リースの定義に当てはまる取引については、リース会計基準等が適用となりますので、いわゆる「実質リース」の存在に留意する必要があります。

 また、リースの識別に関する定めについても、基本的にIFRS第16号の定めと整合させて、具体的には、以下のフローチャート(図表3)のようになっています。

photo (図表3)リースの識別に関するフローチャート

 各権利や契約内容の判断を行う際は、全て「使用期間全体を通じて」該当するか否かを判断する必要があります。

3.リース期間

 借手のリース期間の決定は、借手が貸借対照表に計上する資産・負債の金額に直接的に影響を与えるものであり、IFRS第16号における定めと整合的に、次の定めを置くこととされています。

  • 借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次のaおよびbの両方の期間を加えて決定する
    • a.借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
    • b.借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
  • 借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮する。貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含まれる

 例えば、1年6カ月の契約期間の賃貸借契約で、6カ月の解約オプション期間と6カ月の延長オプションが付帯しているとします。契約期間は1年6カ月であったとしても、延長オプションの行使が合理的に確実であると判断される場合には、リース期間を2年として会計処理することになります(図表4)。

 ここで、合理的に確実の判断は「経済的インセンティブ」を生じさせる要因を考慮することとされています。

経済的インセンティブの例

  • 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件
  • 大幅な賃借設備の改良の有無
  • リースの解約に関連して生じるコスト
  • 企業の事業内容に照らした原資産の重要性
  • 延長オプション又は解約オプションの行使条件

 このように、リース期間は契約期間で一律定まるものではない点や、オプションの行使が合理的に確実に見込まれるのかの判断が求められる点など、これまでの実務が大きく変わる点がありますので留意が必要です。

photo (図表4)リース期間

4.リース開始日の使用権資産およびリース負債の計上額

 リース会計基準等ではIFRS第16号の定めと同様に、借手は使用権資産について、リース開始日に算定されたリース負債の計上額に、リース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用および資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブ(※1)を控除した額により算定することとされています。

(※1)リース・インセンティブ:借手に対する現金の前払い、移転費用などの借手に発生する費用の補填、または借手が第三者と締結している既存のリースの貸手による引受けなどが考えられます。

 また、リース負債の計上額を算定するに当たっては、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定することとされています。

 ここでいう借手のリース料は、リース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり(図表5)の(1)〜(5)の支払で構成されます。

photo (図表5)使用権資産およびリース負債の構成要素

5.利息相当額の各期への配分

 リース会計基準等では(図表6)の通り、現行と同様の取扱いとすることとされています。

photo (図表6)利息相当額の配分方法

6.使用権資産の償却

 リース会計基準等では(図表7)の通り、使用権資産の償却について、基本的に現行のリース会計基準等でオンバランスされているリース資産の償却と同様の会計処理を行うこととされています。

photo (図表7)リースの種類別の償却方法

 また、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに該当するか否かの定めについては、一部を除き基本的に企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」における所有権移転ファイナンス・リース取引に該当するか否かの定めを踏襲し、次の場合とされています。

  • 契約期間終了後または契約期間の中途で、原資産の所有権が借手に移転することとされているリース
  • 契約期間終了後または契約期間の中途で、借手による購入オプションの行使が合理的に確実であるリース
  • 原資産が、借手の用途等に合わせて特別の仕様により製作または建設されたものであって、当該原資産の返還後、貸手が第三者に再びリースまたは売却することが困難であるため、その使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されることが明らかなリース

 

7.表示

 借手の表示についても、図表8の通り、IFRS第16号と整合的なものとしています。

photo (図表8)借手の表示

8.まとめ

 各企業の資産・負債の金額に重要な影響を与える可能性のある借手の会計処理と表示を中心に解説しました。

 多くの企業はリースの「借手」になり得ますが、財務諸表や経営指標に影響を与える他、業務プロセスの見直しやシステム対応など実務への影響も想定されますので、早めの準備が必要になると考えられます。

著者プロフィール

小倉 幹生

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EY新日本有限責任監査法人

品質管理本部 会計監理部 公認会計士

日本の会計基準および日本のサステナビリティ開示基準に関する調査研究やその解釈および適用に関するコンサルテーション等に従事している他、雑誌への寄稿や上場企業の監査業務に従事している。


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