新リース会計基準案が導入されると、さまざまな適用上の課題があると言われています。例えば会計面の課題では、借手のオペレーティング・リースは原則としてオンバランスになることや、更新可能性も含めてリース期間を設定することなどへの対応が求められることです。このように、これまでとは異なる取り扱いが求められるために会計上の検討が必要です
それでは、会計面の課題以外に、実務上の課題にはどのようなものが想定されるのでしょうか。ここでは、そのうちの主な4点について解説します。
最初に、実務上の課題が生じる要因として、現行のリース会計基準では想定していなかった情報を集める必要があること、およびリースの会計処理に影響する新しい概念が出てきたことが大きいと考えられます。例えば、以下のような点が影響する可能性があるでしょう。
オペレーティング・リースは原則としてオンバランスになりますが、備品などの動産のリースは、リース会社から情報を入手できることが多いため、実務上課題が生じる可能性は大きくないと思われます。
一方、土地建物などの不動産賃貸借契約については、本社ビル、支社、営業所、店舗建物やテナント、借上社宅など、連結グループ内の取引も含めて新規契約及び契約の更新いずれについても網羅的に把握する必要があります。
また、リースの定義が国際財務報告基準(IFRS)と整合的になったため、従前はリースとして取り扱っていなかった取引が、会計上はリース取引とされる(実質リースとなる)可能性があります。特に、製造子会社や外注先との取引、大口顧客との取引なども確認して重要性のある実質リースを網羅的に把握する必要があります。
このほか、リース契約とサービス契約がセットになっている場合には、リース資産としての会計処理を行う範囲を特定する必要があります。例えば、不動産賃貸借契約に含まれる修繕に関する費用や、清掃および警備に関する人件費などがサービス部分に該当します。また、契約に関連するその他のコスト、例えば借手が負担させられる場合の保険料や固定資産税など、これらを把握した上で、会計処理をどのように行うか判断する必要があります。
新リース会計基準は、国際的な会計基準との整合性を図るために、主にIFRSにおけるリースの基準を参考にして作られています。
このため、IFRSにおけるリース会計基準の訳語、例えば解約や延長オプションが存在する場合においてリース期間を判断するための「合理的に確実」という考え方など、日常的にはさほど用いられない言葉が使われています。
また、店舗などの不動産賃貸を各営業所や支社の総務部門などが保有・管理している場合にも会計基準の適用が難しいと考えられます。それぞれの拠点において、将来の更新可能性や、資産を誰がどのように使用するのかなど、従前は特段検討していなかった要素についても情報収集を行った上で、そのような会計基準上の言葉文言に基づいた統一的な判断基準で会計処理を検討する必要があるためです。
このため、社内のリースに関係する担当者が正しく新リース会計基準を理解するためには、当該基準に関する説明を十分に実施すると共に、人事異動などにより担当者が変わる場合には、適切に知識や実務対応方法が引き継がれるようにしなければなりません。そのためには、実務マニュアルも入念に整備することがポイントになります。
新リース会計基準では、借手のオペレーティング・リースは基本的に全てオンバランスになります。このとき、新規契約や契約の更新いずれについても網羅的に把握した上で、それぞれのリース契約ごとにリース料総額を計算し、一般的にはリース期間ごとに対応した割引率を用いてリース負債の割引現在価値を算定します。
また、計上した使用権資産(リース資産)の種類別に耐用年数を用いて減価償却を行うと共に、リースの支払は利息法で計算した支払利息とリース負債の返済に分けて会計処理を行うことになります。これらの金額の計算は、契約件数が少なければ関数を組んだExcelなどでも計算することは可能です。ただし、契約件数や種類が多い場合は、計算や入力の誤りが多くなる可能性が高まります。
また、大量のデータを経理担当だけで処理することが難しいことにより、複数のExcelが存在してくると、更新や集計の手間が生じ、適切なデータ管理を行うことが非常に難しくなってくると考えられます。
さらに、リース契約自体の更新や賃料の改訂がある場合には、計算の基礎となる情報を更新する必要があります。しかし先述した通り、会計基準の内容を正確に理解することが難しいこともあり、入力誤りや入力漏れに注意が必要です。
このため、リースに関する計算をシステムで行うのか、またはExcelなどで行うのか、リース契約の数や複雑性、社内のリソース状況などを踏まえて判断する必要があります。また、登録する契約情報自体の随時のメンテナンスも、基準を正確に理解した上で適切に実施し、社内で計算結果を確認する業務プロセスを構築する必要があることに留意が必要です。
リースに関する社内の関係者は、経理部門だけでなく、賃貸契約などの情報を管理している固定資産管理担当者や調達担当者など(以下「固定資産担当など」とする)、経理以外の複数の関係者が想定されます。
この場合にリース契約の数が多いことを想定すると、経理担当だけで契約内容を管理することは現実的とは言いがたいでしょう。そのため、各固定資産担当などが契約内容を管理し、必要な情報をシステム入力するといった対応が想定されます。
経理担当は計算された結果を確認する、難解な契約に関する相談対応を行うなど、適切な連携を行うことが求められるケースも出てくるはずです。さらに、管理すべき契約件数や社内のリソース状況を勘案し、外部の会社などに委託して契約管理やシステム入力などを行うようなケースも起こり得ます。
いずれにしても、誰が仕訳の起票に必要な情報管理やシステム入力を行うのか、社内での役割分担と責任を明確にしておくことがポイントになります。
以上の通り、新リース会計基準の適用には、会計面での課題対応にとどまらず、実務上の課題にも対応する必要があります。特にリース契約の件数が多ければ多くなるほど、適用時の契約情報の整理には時間を要します。また、システム対応を行う場合には、その導入や既存システムの改変にかかる費用・時間のコストも考えなければなりません。社内の業務プロセスを整備し、責任の所在を明確化した上で、基準への十分な理解も図っておく必要も生じます。
新リース会計基準の適用には一定の準備期間が設けられているものの、必ずしも時間的に余裕があるとは限りません。当該基準を順調に適用するには、早めに対応方法の検討に着手することも一案として考えられます。
守川泰子
EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 公認会計士
財務会計アドバイザリーとして、リースに関する会計基準(案)の導入支援に複数従事している他、IFRSの導入支援、決算早期化・効率化、経理業務のDX化等の幅広いサービスを幅広い業界に提供。特に、不動産・建設セクターへのサービス提供実績が多い。
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