バーガーキングの日本事業が、躍進を続けている。2019年に77店舗にまで落ち込んでいた国内店舗数は6年間で77店舗から337店舗と、4倍超に拡大。2028年末には600店舗体制を目指す。既存店売上高は44カ月連続で前年実績を上回っている。
この成長を下支えるのが、バーガーキング独自の企業風土だ。競合のマクドナルドは、従業員に対して、徹底的なマニュアル化を促進し、運営の標準化・効率化を図っている。一方のバーガーキングは、社員の個性を尊重する対極的な組織文化を採用しているのだ。
この組織作りは、例外行動を許さない一般的な「チェーンストア理論」から考えれば「異色」であり、一歩間違えれば統制不能に陥るリスクも孕む。なぜ、あえて「脱・軍隊」を選び、それが異例の快進撃を生んでいるのか。バーガーキング日本事業を運営するビーケージャパンホールディングスの野村一裕社長に聞いた。
野村一裕 ビーケージャパンホールディングス社長。1978年生まれ。上智大学卒業、MBA、一橋大学大学院国際企業戦略専攻。2002年キリンビール入社。料飲店・量販店の営業担当や商品マーケティング担当を歴任。2019年ビーケージャパンホールディングスに入社。同年新体制となったバーガーキングのマーケティングディレクターとしてマーケティング戦略、新商品開発、ブランドコミュニケーションを指揮。2022年にCOO就任。マーケティング部門に加え、店舗開発やフランチャイズビジネス部門を統括。2023年1月より代表取締役社長に就任(撮影:河嶌太郎)――社員が楽しく働ける会社にするための秘訣は何でしょうか。
ありきたりかもしれませんが、われわれのスローガンである「HAVE IT YOUR WAY」(あなたらしく)が全てに通じています。これは本来、利用者に向けた「自分好みにカスタマイズして楽しんでね」というメッセージなのですが、実は従業員に対しても同じスタンスなのです。
例えばバーガーキングには「○○ヘビー」 という裏メニューのようなオーダー方法があります。「○○ヘビーで」と注文すると、野菜やソースが無料で1.5倍に増量できるのです。レタスだけやソースだけ増量といった細かいカスタムも可能です。これはオペレーション的には手間も時間もかかります。「ファストフード=スピード命」という常識からすれば非効率かもしれません。
しかし、われわれはマクドナルドを目指しているわけではありません。彼らが50年かけて築き上げたスピードと効率性は本当に素晴らしい神業ですが、われわれの土俵はそこではないのです。
「直火焼き」でパティを焼く時間は彼らの3倍かかりますが、その分、一口食べた瞬間に、味の良さを伝えられると自負しています。この「体験」を提供することに価値を置いています。
そして従業員に対しても「HAVE IT YOUR WAY」です。入社当初は皆さんスーツを着てきますが、私は「いつまでスーツを着ているの?」と聞きます。スーツなんて、よっぽど着こなしが好きな人以外は、窮屈なだけでしょう。パジャマで来たいなら「それでもいい」くらいの気持ちです。実際、夏になればハーフパンツで出社する社員もいます。タトゥーが入っている社員もいるかもしれませんが、利用者に見えない範囲なら問題ありません。
「あなたがやりやすい格好、やりやすいスタイルでいい。その代わり、結果はしっかり出そうぜ。ついて来いよ」というのが、私の本当のところのメッセージであり、楽しく働ける環境づくりの根幹にある考え方ですね。
――イオンやニトリが採用している「チェーンストア理論」では、基本的に例外行動を許しません。髪型や服装まで厳格に標準化することで効率化を図っています。しかし、バーガーキングはかなり独自の解釈、あるいは真逆のアプローチをとっているように感じます。
確かに真逆ですね。言葉を選ばずに言えば「いい加減」かもしれません。ニトリのように厳格な統制ができるのは、創業オーナーだからこそなせる業だと思います。私は雇われ社長であり、オーナーではありません。もし私がこの規模の組織で、軍隊のような厳格なルールをトップダウンで押し付けようとしたら、組織は一気に崩壊してしまうでしょう。
だからこそ、私は逆の方向に振りました。「好きなようにすればいいじゃないか」と。髪の毛が金髪でも、耳にピアスを開けていても構いません。その代わり、仕事だけは真剣にやろう、サボらずに結果を出そうと伝えています。見た目がどうであれ、社員は一生懸命に働いてくれています。
――365日営業している店舗ビジネスにおいて、従業員のモチベーションや体力を維持するのは難しい課題だと思います。
その通りです。店舗は365日動いていますから、全員が常に全力疾走していたら身が持ちません。「100%の力で走り続けろ」というのは無理な相談です。ですから私は「せいぜい60%の力でいいから、ジョギングのように最後まで走り続けてくれ」と言っています。
もちろん正直に言えば、まだ発展途上の会社ですから、日曜日に緊急の電話がかかってきて、家族といる時に対応しなければならないこともあります。そこは申し訳ないけれど、今はまだ特定の人に頼らざるを得ないフェーズでもあります。それでも、基本的には「60%のジョギング」で長く走り続けるスタイルを推奨しています。
――2023年の社長就任以降、組織も拡大し続けています。
私が2019年にこの会社に入った時は、WeWorkの小さなスペースで、デスクも30人分くらいしかありませんでした。そこから業績が伸びて人が増え、WeWorkから(千代田区)一番町のオフィスへ、そしてさらに手狭になって現在の一番町のオフィスへと移転しました。
実はこの移転の際、最寄り駅を変えたくなかったのです。これは私の臆病な考えかもしれませんが、会社が成長して「これからさらに波に乗っていこう」という時に「渋谷が好きだったのに代々木になっちゃったから」というような、通勤環境の変化を言い訳にモチベーションを下げてほしくなかったんです。
駅が変わると、仕事に対するモチベーションが変わってしまうかもしれません。だから、家賃が倍になっても同じエリアで、かつ駅により近い場所を選びました。「環境も良くなったし便利になったから、このまま頑張ろう!」という状態にしておきたかったのです。
――従業員を顕彰する文化、特にMVPへの報酬も充実させたそうですね。
店長会議で年間MVPを決める際、担当者から「予算はどうしますか?」と聞かれたので「50万円使いなさい」と指示しました。ただし現金を渡すのではなく、その店長の家族全員が喜ぶ体験に使えと指示しています。
例えば、50万円の予算で露天風呂付きの高級旅館を手配し、送迎もつけます。部屋に入ったらキンキンに冷えたお酒が2本あり、ベッドにはバラの花束が敷き詰められているような演出です。あるいは、ディズニーアンバサダーホテルのスイートをとって、朝から晩までパークで遊び、部屋に戻れば豪華な食事が待っているというのもいいですね。従業員に子どもがいれば、キャラクターがお祝いに来てくれるような手配をしてもいいでしょう。
50万円という予算内でできる最高のおもてなしを、その家族のために用意させるわけです。1万人近いスタッフの中から勝ち抜いた「たった一人の店長」なんですから、それくらいの価値があります。「あのMVPになりたい」とみんなが憧れるような、圧倒的な賞賛の形を作ることを大切にしています。
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