米Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)によるバーガーキング日本事業の買収は、外食業界で大きな話題となった。同社は2025年11月、日本でバーガーキングを運営するビーケージャパンホールディングス(東京都千代田区)を傘下に持つ香港系投資ファンド、アフィニティ・エクイティ・パートナーズと売買契約を締結。取引規模は約800億円となった。
2019年5月末には77店舗に落ち込んでいたバーガーキングの国内店舗数は、2025年12月末時点で337店舗まで拡大。2028年末には600店舗体制の目標を掲げ、出店ペースはさらに加速している。
世界有数の金融機関が巨額の資金を投じてでも手に入れたかった企業に今、何が起きているのか。ビーケージャパンホールディングスの野村一裕社長に、この買収劇の背景と今後の展望を聞いた。
野村一裕 ビーケージャパンホールディングス社長。1978年生まれ。上智大学卒業、MBA、一橋大学大学院国際企業戦略専攻。2002年キリンビール入社。料飲店・量販店の営業担当や商品マーケティング担当を歴任。2019年ビーケージャパンホールディングスに入社。同年新体制となったバーガーキングのマーケティングディレクターとしてマーケティング戦略、新商品開発、ブランドコミュニケーションを指揮。2022年にCOO就任。マーケティング部門に加え、店舗開発やフランチャイズビジネス部門を統括。2023年1月より代表取締役社長に就任(撮影:河嶌太郎)――バーガーキングの経営母体が香港のファンド、アフィニティ・エクイティ・パートナーズからゴールドマン・サックスに変わりました。これはどう受け止めるべきでしょうか。「買収」というと、ネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれませんが。
確かに「買収=落ち目」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、今回の件は全く逆で、むしろ「勝ち戦」の結果だと捉えていただきたいです。
われわれの株主だった香港のファンドの下で、かつて赤字だったビーケージャパンホールディングスは、8年の間に業績を劇的に回復させました。その結果、企業価値は約800億円弱という評価額がついたのです。これはファンド側も想定していなかったほどの成功です。彼らとしては一番手放したくないタイミングではありますが、ファンドの性質上、最も高く売れる時期に売却するのがセオリーです。
800億円という規模になると、日本の一般的な事業会社が即決で買える金額ではありません。例えば2023年4月にロッテリアがゼンショー傘下に入った際の金額は、300億円程度と言われています。当時ロッテリアは350店舗台でしたから、ほぼ同程度の店舗数で、バーガーキングには倍以上の金額がつきました。
ゴールドマン・サックスは800億円を投じたとしても、さらに5〜7年後にはもっと企業価値が高まると判断したわけです。ファストフードビジネスは、成功のモデルが一度できれば、あとは店舗を増やしていくだけで利益が積み上がる美しさがあります。さらに、ゴールドマン・サックスは、この成長余地とビジネスモデルの強さを確信してくれています。
――現在の日本法人の規模について教えてください。
店舗勤務の社員を含めて約400人体制です。そこにアルバイトやパートを加えると、全体のスタッフ数は1万人を超えます。
――店舗数は約300店まで拡大しました。かつての縮小傾向から見ると大きな変化ですが、業績面での手応えはどうですか。
店舗数だけで見れば、業界2位のモスバーガーの1200〜1300店舗には及びません。一方、売上規模では2年以内に超える見込みです。これは客単価が高いだけでなく、来店客数も伸びているからです。
外食産業には1店舗当たりの1日の平均売上高を表す「日販」という指標があります。王者であるマクドナルドは約80万円以上と言われています。私が社長に就任した2019年5月当時、バーガーキングの日販は20万円程度でした。これはマクドナルド以外の競合他社と、同じくらいの水準です。
それが現在では、約3倍の平均60万円超えまで成長しました。バーガーキングの勢いがお分かりいただけるかと思います。オペレーション能力の向上、話題になるマーケティング、そして「また食べたい」と思わせる商品力。これらがようやく噛み合ってきた結果です。
――ここまでビーケージャパンホールディングスを成長させてきた社長として、買収された後の心境はいかがでしょうか。
ありきたりな答えになってしまいますが、「認められた」という喜びが一番大きいです。もともと赤字だった会社を引き継ぎ、ここまで来るのは長かったような、あっという間だったような不思議な感覚ですが、2019年に入社してからの7年間でここまでの成果を出せました。
世界的な金融機関であるゴールドマン・サックスが株主になったことは、グローバルのバーガーキング本部にとっても衝撃的なニュースだったようです。2025年、われわれは世界に約140あるバーガーキングのマーケットの中で「マーケター・オブ・ザ・イヤー」の1位を獲得しました。
その直後に、この売却の話がまとまりました。グローバルの仲間たちからも「君たち、やったな!」と拍手喝采です。こんなにきれいなストーリーは、探してもなかなかないと思います。
――今後の目標や、野村社長の進退についてはどう考えていますか。
私個人としては、ゴールドマン・サックスの方々にわれわれの強みも弱みも全て包み隠さず説明するつもりです。その上で、「一緒にやってほしい」と言っていただけるのであれば、もう一度エンジンをかけ直して、2019年の時のような熱量でこれからの3〜5年を走ります。
具体的な目標としては、2028年末までに売上高1200億円、600店舗体制を目指しています。売上高1200億円というのは、業界2位のモスバーガーを抜く数字です。あと3年でそこまで持っていくのが、私のミッションだと考えていました。
ただ、もし株主から「君はもういいよ」と言われたら、潔く身を引く覚悟もできています。私の戦略はこの7年間では当たりました。ですが、戦略というのは状況によって変わるものです。さらに3〜5年と同じ人間がトップに立ち続けると、どうしても自己否定ができなくなり、新たな発想が生まれにくくなります。
ですから、新しい戦略を練ることができる経営者にバトンを渡し、私はそれを見守る立場になるという選択肢も十分あり得ます。そこが私の引き際になるでしょう。
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