大正製薬の発毛・育毛剤ブランド「リアップ」。発売から四半世紀以上が経ち、長年支持されてきた一方で、新規顧客の獲得が課題の一つとなっていた。
薄毛や抜け毛の悩みは、他人には相談しにくい。そのため情報が集まりづらく、生活者本人に直接アンケートやインタビューをして調査するだけでは、購買に至るまでの経緯を十分に捉えるのは難しい。
生活者の価値観やメディア接触が多様化するなか、同社は従来のマスメディアに依存したプロモーションを見直し、より細かな顧客理解に基づいてマーケティング施策や予算配分を検討する必要性もあった。
こうした課題を踏まえ、大正製薬は電通、Googleとともに、生成AIサービス「Gemini」を活用したマーケティングプロセスの構築に取り組んだ。それは、実データを基に作成した仮想ペルソナとの対話を通じて顧客理解を深め、関係者が同じ場で議論しながらコンセプトやクリエイティブ、メディアプランを検討するという方法だ。
この試みにより、従来は約2カ月を要していた一連のプロセスを、1日で進められたほか、施策実施後には、前年同月比で店頭売り上げが6%増、自社ECの売り上げが39%増という成果も生んだ。
生成AIを組織横断の議論や意思決定にどう活用できるのか。リアップの事例を追った。
大正製薬は生成AIを組織横断の議論や意思決定にどう活用しているのか。発毛・育毛剤ブランド「リアップ」のマーケティングチームの取り組みを取材した。画像右:ブランドコミュニケーション部長の栄角尚郎氏、画像左:ブランドマネジメント部外用グループ主任の越智啓介氏(編集部撮影)Geminiの活用について紹介する前に、大正製薬の組織体制に触れておきたい。
同社は機能別組織を採用している。マーケティング本部の下に「ブランドマネジメント部」「ブランドコミュニケーション部」「メディア推進部」「マーケティング企画部」──の4部署があり、約60人が所属する。
各部署ではブランドごとに担当が分かれ、目標もブランド別に設定されている。そのため、マトリクス組織の側面もあると言えるが、組織構造自体は機能別であることから、セクショナリズムが発生したり、視野が狭くなったりするなど、機能別組織の弱点も見え隠れしていた。
「本来ならブランド単位で目標達成にコミットすべきであるものの、マーケティングプロセスに応じて組織が分断されていると、どうしても自分の担当領域に閉じた部分最適な発想になりがち。個人の意識改革だけに依存するには限界を感じていた」
マーケティング本部 ブランドコミュニケーション部長の栄角尚郎氏はこう話す。
この部門の壁を取り払い、ブランドの売り上げ・利益の最大化という目標に向かって、一丸で取り組むための突破口として試行したのが、大正製薬・電通・Googleの3社合同プロジェクトだ。
大正製薬からはマーケティング本部の4部署に加え、営業など関連部門の担当者が参加。さらに電通の営業やクリエイティブディレクター、GoogleのGemini担当者など、リアップに関わる約20人が集まった。顧客分析からコンセプトやクリエイティブ方針の策定、メディアプランニングまでを、一連のプロセスとして進めた。
このプロジェクトの特徴はGeminiの使い方にある。
関係者全員が1つの会議室に集まり、大画面に映し出されたGeminiの画面を見ながら議論する。そこで上がった意見を基に、モデレーターがその場でプロンプトを打ち、Geminiの返答を受けて、議論を深めていく。
「従来であれば、代理店の提案を社内に持ち帰り、検討を重ねて稟議を通し、実行のGOサインを出すまでに、2カ月ほどの時間を要していた。しかし、関係者全員が同じ情報を共有しながらプロセスを進められたことで、意思決定にかかっていた期間を1日にまで短縮できた。伝言ゲームをしていた頃にはなかった、皆が納得感を持って次のアクションに移れる価値は、計り知れない」(栄角氏)
では、具体的にGeminiをどう使ったのか。
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