東京都・千代田区。国会議事堂や各省庁が集まる日本の首都機能の中枢であるほか、日本最大のオフィス街である丸の内や、サブカルチャーの街として国内外から注目を集める秋葉原などを擁する。
千代田区の夜間人口は約7万人だが、日中はビジネスや通学で人々が集まるため、昼間人口は夜間人口の約13倍、約90万人にまで膨れ上がる。こうした背景から、千代田区役所の職員は、100万人都市並みの行政需要を支える必要があるのだ。
業務量は膨大な一方、公務員志望者は減少しており、自治体では業務効率化が急がれている。こうした中、千代田区は生成AIの全庁展開に着手し、年間で4000時間の業務削減を実現するという成果をあげている。同区のデジタル政策課 デジタル政策係長 岡本翼氏が、自治体における生成AI活用の現状と今後について語った。
本記事の内容は、アイスマイリーが8月26〜27日に開催した「AI博覧会」のセッション「全庁展開のその先へ―With AIの実践」を基に構成したもの。
千代田区は全事務職員約900人に対して「Microsoft 365 Copilot」の有償ライセンスを付与している。多額の費用を投じて全庁展開したのには、大きく3つの理由があると岡本氏はいう。
職員は多くの業務でWord、Excel、PowerPointといった「Microsoft 365」の各種アプリケーションを活用している。当初は「ChatGPT」の利用を進めていたものの、AIと対話するために画面を切り替えるという数秒の手間が、忙しい行政の現場では「使いたくない」という障壁になってしまっていた。
そこで、使い慣れた「Microsoft 365」にAIを直接組み込むことで、操作の手間を極限まで排除。AI活用の障壁を下げた。
千代田区は職員が生成AIを活用する際、区の専用テナント内でデータが完結し、学習に利用されない仕組みを構築した。機密情報を扱う職員の情報漏洩(ろうえい)への心理的障壁を解消することで、AI活用を後押しした。
既存ライセンスの延長線上で導入できるため、情報システム部門との調整コストを最小化した。スピード感をもって導入を進められた。
岡本氏によると、導入の成果は当初の予測をはるかに超えているという。Copilot ダッシュボードによる分析では、年間の業務削減時間は最新データで4000時間に達する勢いだ。
定性面でも2つの効果が出ている。1つが職員の時間の使い方だ。国からの難解な通知文の解読、他区のリサーチ、パワポのドラフト作成といった業務に対し、AIが「最初の叩き台」を作ることで、職員はゼロから悩む苦痛から解放された。岡本氏は「定型業務をAIが担うことで、職員が『考える時間』を取り戻せた」と話す。
2つ目が若手の心理的安全性の向上だ。AIが「24時間相談できて、決して不機嫌にならないチューター」として機能し始めたことで、多忙な先輩職員の手を止めることに申し訳なさを感じ、質問を飲み込んできた若手職員の働きやすさ向上につながっているという。
千代田区は今後「業務特化型エージェント」の構築を目指している。法令検索や複雑な手続き案内を行う専用エージェントだが、実現には大きな障壁があるという。構造化データの欠如だ。
これまでの行政は、上司や議員など人間が紙として見た時の美しさを優先し、資料を作成してきた。しかし、見栄えを優先して作られてきた紙ベースの資料や非構造化データは、AIにとっては「読み取りづらいもの」に過ぎない。こうしたデータをいかにAIが理解しやすい構造化データに変えていくかが目下の課題だ。
千代田区が進めるAI活用は、単なるツールの導入ではない。これまでの行政運営にAIをいかに組み込み、アップデートさせていくかのモデルケースといえるだろう。
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