全従業員が当たり前のようにAIに触れるステージ0の状況を作り出すため、CDIO管轄組織(以下、CDIO組織)がとった手法は、徹底した「対面での対話」だった。
「AIのライセンスを配るだけでは使われません。戦略を立てて、現地に直接届けることが重要だと考えました」と、デジタルソリューション部 IT/デジタル変革推進グループ グループリーダーの川崎拓氏(崎は正しくは「たつさき」)は話す。
スピーディーな普及を目指す中、オンラインの教育プログラムを用意するだけでなく、講師陣が全国の事業所に飛び、現地でハンズオンセミナーを実施したのだ。2026年1月から8月にかけて、国内23拠点で計38回開催し、1361人が参加したという。
当初のセミナーは初歩的な内容からスタート。ツールの開き方から始まり、議事録作成のプロンプトなど、個々の日常業務ですぐに使えるライトな使い方を徹底的に伝えた。AI導入を推進する講師メンバーの顔を覚えてもらい「今日じゃなくてもいいから何でも聞いてほしい」と現場との距離を縮めることに注力し、AI活用の定着を進めていった。
さらに同社では、この動きを一過性のものにしないための強力な全社体制を敷いている。CEOをオーナーとし、最高戦略責任者/最高リスク管理責任者(CSO/CRO)がリードする「AIX(AIトランスフォーメーション)戦略コミッティ」を組成。最高技術責任者(CTO)、最高人事責任者(CHRO)、そしてCDIOの能丸氏も参画し、全社での推進に取り組んでいる。
ステージ0の普及活動が実を結び始めると、現場から自発的な動きが生まれ始めた。先進的なユーザーたちが、単なる「作業の効率化」を超えて、自らの業務課題を解決するためのAIエージェントの活用を検討し始めたのだ。
現場発の事例の一つが、製造現場での「危険予知(KY)活動」におけるAI活用だ。危険予知活動とは、作業開始前にチームや個人で、作業に潜む危険要因を事前に発見・予測し、災害を未然に防止するための取り組みを指す。従来、現場の担当者が状況を確認した後、事務所に戻って書類を作成し、上司の承認を得るまでに、1〜2時間ほど要することもあったという。
そこで現場の担当者は、スマートフォンから現場の状況を入力すると、バックグラウンドで動くAIエージェントがレゾナックの安全指標に基づいて注意点や改善のためのフィードバックを自動で生成し、そのままワークフローで承認まで完了する仕組みを構築した。このプロセスにかかる時間を、従来の約60分の1に短縮した。
また、化学品法規制分野では、教育資料やテストの作成・実施・集計を自動化し、従来の約5分の1の時間で教材作成を可能にした。他にも設備導入、在庫管理、研究開発支援などさまざまな領域でAIエージェントの活用が進んでおり、現場負荷の軽減や業務効率の向上につながっている。
現場発のアイデアが次々と生まれる一方で、それが各部署に閉じた「野良エージェント」になってしまっては過去のDXと同じ失敗を繰り返すことになる。そこで能丸氏らが構築したのが、ボトムアップとトップダウンを融合させた独自の「共創モデル」だ。
現場で生まれたエージェントの中で、効果や汎用(はんよう)性が高いものをCDIO組織が発見すると、その作成者に直接声をかける。CDIO組織がデジタル領域の知見を生かして品質向上や標準化のブラッシュアップを各事業部門と共に行い「共創エージェント」として全社のポータルに展開している。
「私たちCDIO組織が、各事業部門の課題をヒアリングしてゼロからエージェントを作るよりも、本当に悩んでいる人が途中まで考えたものを一緒に完成させるほうが、現場で使われるものができる」と川崎氏は語る。
CDIO組織による知見の提供→現場でのアイデア創出→CDIO組織と現場による共創→CDIO組織による標準化と全社展開、というサイクルを継続的に回すことで、全社的な業務プロセスの変革につなげている。
さらにCDIO組織では、ステージ1の取り組みとして「AIドリブンBPR(業務プロセス改革)」というアプローチも推進している。
従来のBPRは完了までに半年以上かかることも珍しくなかったが、課題の発見や分析をアシストするAIエージェント群を独自に用意。推進側がモデルとなる事業所に入り込み、現場の悩みを直接聞きながら、目の前でAIを活用したBPRを実演してみせる。これにより、従来の半分以下のスピードで業務プロセスの再設計が可能になりつつあるという。
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