Lセグメント 環境時代のフラッグシップ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
Lセグメントにコストパフォーマンスという言葉は似合わない。そのブランドが信じる「最高のクルマ」を具現化することが目的となるからだ。
Lセグメントの「L」とは、イタリア語で豪華を意味する「Lusso」の頭文字だ。Aから整然とアルファベット順に並んでいるセグメント名がEの後、突然Lに飛ぶのは、Lセグメントが無差別級だからだ。
グローバルな戦いの中で
この連載を通読している方なら既にご存じのように、現在のグローバルマーケットにおいて、元気が良いのはインド、ASEANなどの新興国で躍進中のA、Bセグメントだ。日本の状況は一度置いておいてグローバルで見れば、ファミリーカーの不動の定番であるCセグメントも元気だと言える。しかしDセグは北米を例外として、プレミアム以外は元気がなく、Eセグにいたってはもはやプレミアムしか生き残っていない。
俯瞰的に眺めれば、各セグメントがどんどんボディサイズを大きくし、さらにパッケージ効率を高めてきた結果、実用車はCセグまでで用が足りるようになってしまったということが大きい。加えて、とてつもない金食い虫の衝突安全設計、あるいはエンジンコントロール、追突軽減ブレーキ、車両制御など、どんどん重装備になる電子制御により、クラスに限らず価格の上昇が止まらない。30年前にはCセグメントの廉価モデルは交渉次第では100万円で買えた。それが今では軽自動車でも怪しい。47万円という価格で一世を風靡したスズキ・アルトのことを思うと隔世の感がする。
一方、所得を見れば、先進国では富の二極化が加速しており、中間層以下の可処分所得は額面ベースですら下落が続いていて、ターゲット顧客がどんどん脱落しているのだ。さらに言えば「クルマを所有する」というモチベーションも下がっている。
こうしたさまざまな状況の結果、小さいクルマは売れるが大きいクルマは売れない流れができた。DセグとEセグは需要が落ちたため、レギュラー・モデルの利幅では開発コストの回収が追いつかず、ビジネスが成立し難くなってきている。つまり、プレミアム性を高めて価格を上げ、利幅を大きくする以外に出口がない。いかにユーザーに高価格を納得してもらうだけの価値を持たせるか、同時に価格競争力をどの程度に設定するか、その攻めぎ合いに各社とも苦労しているのである。
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