山手線新型車両、広告新システムに秘められた実力アリ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
山手線の新型車両、E235系が走り始めた。廃止と報じられた中吊り広告は存続され、新たに3画面の「まど上チャンネル」がスタート。しかし、ただ画面が増えただけではない。現在の山手線車両E231系よりも強力な表現力を秘めている。
ウリは画面の多さだけではない
E235系については、中吊りの有無や「まど上(網棚上)」の3画面広告が話題になっているけれど、実は山手線の広告システムとして大刷新が行われている。広告の配信方法が変わり、やろうと思えばリアルタイムで広告の内容を変更できる仕様になった。
例えば、ファストフードのチェーン店が広告枠を確保した場合、気温が下がったら温かいメニューを宣伝し、小春日和になったら涼しげなフルーツのデザートに差し替える。スポーツの試合終了後に優勝記念セールの告知、という手法も技術的には可能だ。
E235系の車内画面広告「トレインチャンネル」は、システムとしては第3世代にあたる。第1世代は山手線の現行車両、E231系500番代から始まった。動画配信は鉄道無線システムのミリ波、運行情報や天気などは携帯電話網を使っている。ミリ波は大容量の通信が可能で、鉄道ではホームの監視カメラの画像をミリ波で飛ばし、運転台のモニターに表示するなどでワンマン運転の安全性向上に役立てている。
ミリ波は大容量通信に向いているとはいえ、動画の配信は時間がかかる。だから広告情報は基幹サーバからいくつかの拠点駅や車両基地に蓄積し、電車が拠点駅や車両基地に停車中に駅側のサーバから電車へ伝送される。電車内では動画サーバから各画面へ、RS485というシリアル通信規格で伝送される。
この第1世代のトレインチャンネルは山手線と中央線快速のE233系に導入された。第2世代のトレインチャンネルは京浜東北線のE233系に導入された。拠点駅と列車の通信がミリ波から無線LANになり高速化された。長時間停車する駅が少ないためと思われる。
第3世代は高速無線通信WiMAXを使う。拠点駅を使わず、広告配信サーバから直接、WiMAXで列車に広告データを配信できる。これは京葉線、横浜線、埼京線、南武線、常磐線のE233系、成田エクスプレスのE259系で使われている。ここに山手線のE235系も加わった。
つまり、山手線のトレインチャンネルは、導入が早かっただけに2世代前の旧式となってしまい、拠点駅を必要とした。それが最新式のE235系になって拠点駅が不要に。WiMAXによる配信に変わった。電車は走行中に広告動画を受信できるから、技術的にはリアルタイム配信が可能になった、というわけだ。
中吊り広告の場合、不適切な表現が問題になれば直ちに撤去や差し替えができた。しかし、第2世代までのトレインチャンネルは臨機応変の対応は難しい。第3世代なら広告取りやめ、内容変更も迅速になる。こうした機動力の向上も、動画広告が中吊り広告に代替するためには必要だ。もっとも、紙の印刷による精細な表現力は現在の画面では難しい。すべての画面が4K以上でB4版サイズに対応するまで、中吊り広告の魅力は衰えないだろう。
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