2015年7月27日以前の記事
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山手線新型車両、広告新システムに秘められた実力アリ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

山手線の新型車両、E235系が走り始めた。廃止と報じられた中吊り広告は存続され、新たに3画面の「まど上チャンネル」がスタート。しかし、ただ画面が増えただけではない。現在の山手線車両E231系よりも強力な表現力を秘めている。

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運休しても大丈夫? 巧みな広告主選択

 E235系の車内広告は1社買いきりのADトレインだ。それが運休してしまったら、広告主に何とお詫びしたらいいだろう。かつて広告業界にいた身としては身震いするほどの事件だ。テレビ番組で言えば、1社提供の冠番組が放送事故、雑誌で言えば予定した広告ページの未掲載や印刷事故に値する。私が過去に経験したクレームの数々がフラッシュバックした。広告担当者は頭を抱えているだろう。

E235系ADトレインの広告主「From AQUA×乃木坂46」(出典:JR東日本ウォータービジネス特設サイト)
E235系ADトレインの広告主「From AQUA×乃木坂46」(出典:JR東日本ウォータービジネス特設サイト

 しかし、広告主を知ってちょっと安心した。広告主は「JR東日本ウォータービジネス」である。JR東日本の関連会社だ。関連会社だから迷惑を掛けていい、というわけではないけれど、まったく資本関係のない「純粋な広告主」よりもだいぶマシだ。しかもこの広告は「From AQUA × 乃木坂46」として、TVCM、駅の飲料自販機壁面、デジタルサイネージ付き自販機のオリジナルコンテンツ配信などを使った広範囲な広告展開である。ADトレインも主力コンテンツの1つではあるけれど、他の媒体に比べて遭遇機会は少ない。話題作り的な役割である。

 それなら新型車両の運休も「悪目立ち」の1つ。話題性を提供したわけだ。JR東日本と広告を扱うジェイアール東日本企画は、あってはならないけど「わずかな確率で起きてしまう故障」を予見して広告主を選んだと言える。ADトレインを使える広告主は大企業だ。資本関係がない純粋なお客さまだったら補償問題になりかねない。些細な危険を見逃さない。こういう発想はいかにも鉄道人らしい。

 ところで、E235系のADトレイン化は広告業界は誰もが予測できた。E235系は中吊りが継続したとしても、既存の山手線車両「E231系」の車内広告とは共通点が少ない。車内広告は列車個別ではなく、路線単位で取引される。山手線に限らず、車内広告は、同じ時期、同じ路線ならどの電車も同じ場所にある。相互直通する路線の場合は、所属する会社の車両ごとに統一されている。

 JRの場合は路線単位のほかに「線群売り」という単位があって、他のいくつかの路線とセットで販売される。この方式は複数の路線を束ねて「面」として展開させる効果がある。「山手線群」は常磐線、横須賀線・総武快速線・つくばエクスプレスのセットだ。このほかに「中央線群」「京浜東北線群」があって、すべて含んだ「3線群」を契約すれば、ほぼ首都圏エリアを網羅する。

 そんな商習慣がある中で、1編成しかないE235系は規格外の異端児だ。路線売りや線群売りに組み込めない。山手線内のE235系の比率が増えるまで、E235系の車内広告はADトレインとして売るしかない。新型の話題性があるうちはADトレイン専門車両となるだろう。

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