ミニバンやSUVをどう分類するか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
クルマの分類として「BセグSUV」といったセグメントがあるが、旧来のセグメントの枠にミニバンやSUVを一緒くたにしてしまうのはちょっと待ってほしい。
クラス分けの落とし穴
もう1つ考察しておきたいことがある。先ほどCセグメントSUVと書いた。こうしたクラス記号のアルファベットとSUVという車型を組み合わせた呼び方は、現在ある程度スタンダードになっているが、本当はこの呼び方も余計な意味付けがなされるのであまり望ましくない。
トヨタ・ハリアー、日産エクストレイル、マツダCX-5の3台がフォルクスワーゲン・ゴルフやトヨタ・プリウスとまるで同クラスか、関連のあるクラスのように感じさせるからだ。SUVを開発するときは先行する他社の競合車を見て開発するのであって、セダンやハッチバックと車格をそろえるつもりなど作り手側にはいっさいないし、何よりもユーザー側だって比較対象ではない。CセグのゴルフとCセグSUVのハリアーの距離は、BセグSUVのジュークより近かったりはしないのだ。
現在のマーケットでSUVを見ると、BセグSUVとCセグSUV、それにEセグSUVというグループに大別されると思う。現実に即した言い方をすれば、小SUV、中SUV、大SUVに過ぎない。そこにBとかCとかEとかを加えると、まるでセダンやハッチバックと横串が通せるように見えてしまう。これは無意味を通り越して有害な部分も多い。
既に述べた通り、マーチとデミオ、ジュークとCX-3はそれぞれ別の対決構図をとるクルマだし、ハリアー、エクストレイル、CX-5に至っては車両のサイズや押し出し感で言えばどう見てもCセグとは思えない。CセグとCセグSUVはたまたま名前が似ているだけで商品としては別のジャンルの商品だ。
それはつまりSUVにはSUV、ミニバンにはミニバンとして魅力を訴求できるサイズの段階があり、性格の違うセダンやワゴンと横一線に並べるものではないということだ。
セグメントとは結局、市場を見据えた総合的な解釈によってのみ成り立つものだと思う。商品として現実に市場で競合しているかどうかに尽きる。サイズやメカニズムを持ち出して簡単な定規にしようという考え方は、一見話を単純化するように見えて、実は無意味なくくりをつけるだけの不毛な作業にしかならないのである。
経済学者に対する皮肉な当てこすりに「理論経済学者」という言い方がある。これがなぜ当てこすりになるかと言えば、理屈の説明はとてもうまいが、実体経済と乖離(かいり)した非現実的なものだという意味だ。経済という現実の現象を説明するためにある学問が、非現実的理論になるということは本末転倒になっているのだ。
セグメントの話もこれと似ている。優先すべきは何よりもまず実態である。あくまでもユーザーがクルマを選ぶときに妥当な区分けになっていなければ意味はない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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