従業員を“うつ”から守る 富士フイルムのメンタル疾患予防法とは?:メンタルヘルスサポート先進企業に学ぶ(2/2 ページ)
福利厚生といった観点だけでなく、経営の観点からも「メンタルヘルス対策」が重要視されるようになった。今回は、3年前からデータを活用したメンタル疾患の予防を行い、堅実に成果を上げている富士フイルムの取り組みを紹介する。
ストレス診断のデータを活用したメンタルヘルス対策
一次予防のストレスチェックではネットアンケートによるストレス診断を定期的に行っており、心の健康状態を本人と産業医が把握できるようにしている。このアンケートでメンタル疾患に至る可能性があると判断された従業員は、二次予防のステップへ移り、産業医との面談、診断を受けることになる。ここまでは、厚労省が企業に対して義務付けた内容と同様だ。
しかし、メンタルヘルスプロジェクトでは単なるストレス診断で終わらせない。本人の同意を得た上で収集したストレス診断のデータを活用し、男女別、年代別、勤続年数別、職場別に細かく分けてメンタル疾患に陥る原因・傾向を分析する。その結果をメンタル疾患予防に役立てるのだ。
今までは、メンタル疾患を予防するための具体的かつ効果的な対策が分からなかった。しかし、ストレス診断のデータを活用し「過去に比べて30代のメンタル疾患が多くなってきている」「勤続年数が5年〜10年の社員は過度なストレスを抱えている割合が高い」などの全体の傾向が分かれば、対策も取りやすい。
問題を見える化することによって、適切な対応を迅速にとれるようになったという。
「例えば、職場環境の変化を機にメンタル疾患に至る傾向があると分かったので、本配属後の新人、異動した従業員、出向者には必ずカウンセラーや人事との面談を実施し、新人研修ではメンタルヘルス講習を行うようにしました」(猪俣氏)
また「この職場では残業時間が問題になっているから、上長と話し合い、仕事の進め方を見直す(改善させる)」といったように職場ごとの課題を発見することで、職場別の対策を取るなど、きめ細かな対応が可能になった。
さらに、人間関係が原因となっていれば本人の人事配置を検討する、不定期の夜間勤務などによる不規則勤務が原因となっていれば勤務体系を見直すなど、個人レベルに合わせた対応も行うという。
定期的に行うメンタルヘルス講習のテーマも、分析結果を参考に「睡眠」「コミュニケーション」などそのとき問題になっていることを題材とし、新人向け、一般社員向け、管理職向けといったように対象を細かく分けて実施する。
例えば、管理職向けの講習であれば、自身のメンタルヘルス対策だけでなく、「部下がメンタル疾患に至るときの傾向」「上司としての部下への対応」といった内容も盛り込むそうだ。
分析結果をもとにした職場への“きめ細かなフィードバック”を積み重ねることによって、増え続けていた同社のメンタル疾患による休業者は3年間で約半分以下に減少。長時間労働(月80時間を超える労働)も3年で4分の1まで減ったという。また、同じく増え続けていた健康保険負担の抑制にもつながっている。
2016年4月からは、グループ会社の富士ゼロックスが導入している「診療内容」「ストレス診断」「勤怠」「職歴」「健康診断」のデータを横断的に活用できるシステムを富士フイルムも導入し、富士ゼロックスのデータと統合させる。富士フイルムグループ全体の「健康データ」「人事データ」を活用することで、より細かな原因・傾向の分析を可能にしていくという。
猪俣氏は「グループ全体でサポートの取り組みを強化し、1人1人に合わせた対応を実現したい」と語る。
「採用した優秀な従業員にやりがいを持って生き生きと働いてもらうこと、そして従業員の健康を守ることは企業の責任。今後も“重要課題”としてメンタルヘルス対策に力を入れ、最終的にはメンタル疾患よる休業者を完全になくしていきたい」(猪俣氏)
会社を支えているのはそこで働く従業員だ。働き手が減っていく中、企業が高い生産性を保ち、成長していくためには、富士フイルムのような従業員に目を向けたデータの活用、取り組みがいま求められている。
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