自治体のキャッチコピーは、なぜ“メルヘン化”してしまうのか:こだわりバカ(4/5 ページ)
自治体のキャッチコピーといえば、あってもなくても同じ空気のような存在の言葉ばかり。筆者の川上氏は、自治体のコピーは空気化し、メルヘン化するケースがあるという。その理由は……。
自治体コピーが空気化しメルヘン化する理由
自治体コピーが空気化しメルヘン化する理由は、前回のコラムで書いた「大学コピーが空気化する3カ条」と重なる部分は多い。空気化からさらにメルヘン化までするのは、ちょっとでも独自色を出そうとしたのが仇(あだ)になっているのだろう。また公募などで寄せられたものを、自治体の偉いオジサンたちが「これでいいんじゃない」とか言って選んでしまうということも要因だと推測される。
しかし、実はこれら以外にもっと根本的な問題がある。キャッチコピーという言葉に惑わされて、その役割をきちんと把握しないままにキャッチコピーを考えて制定してしまうことだ。もちろんこれは自治体コピーに限ったことはない。ちょっと整理しておこう。
キャッチコピーと呼ばれるいるものには、大きく分けると3つの階層がある。私はこれを川の流れになぞらえて「川上コピー」「川中コピー」「川下コピー」という風に分類している。
一般的にキャッチコピーと認識されることが多いのが、川下コピーだ。海にあたる生活者と直接向かい合うコピー。多くの商品広告のキャッチコピーがこれに当てはまる。CMはもとより、チラシや店頭POP、商品名などもこれに含まれる。実際に売りに直接つながるキャッチコピーだ。
川中コピーは、少し階層が上がり、長期的なキャンペーンコピーや、ブランドを表現するコピーである。一般的に、その企業やブランドのイメージを確立するときに必要で、ダムのようにいいイメージを貯める役割を果たすことが理想的だ。
川上コピーは、さらに階層が上がる。その企業の理念をキャッチコピー化したスローガン(コーポーレートメッセージ、タグラインとも)だ。水源・源流にあたる部分なので、企業の広報広告を考える上では、ここが明確になっていないと、川中や川下でどんなにがんばっても一時的な効果しか得られない。川上コピーをきちんと機能させることがまず何よりも重要なのだ。
自治体のキャッチコピーを考えるとき、この「川上」「川中」「川下」という概念が抜けていることが多い。
自治体の職員や市民にとっての目標や旗印となるような「川上コピー」を考えるのか。他県から観光に来てもらうためのプロモーション用の「川下コピー」なのか。その自治体のブランド力を高め、特産品などのバリューを上げたり、住みたいと思わせたりするための「川中ダムコピー」なのか。
つまり誰に向かってどういう目的のためのキャッチコピーかを書くかによって、書くべきキャッチコピーの内容が全く変わってくるのだ。
しかし大抵の自治体のキャッチコピーは、誰に向けて何を言うかを考えないまま企画し、考えないまま書かれ、考えないままそれを採用してしまう。それによりコピーは空気化し、さらにメルヘン化までしてしまうのだ。
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