鉄道業界に急増する「サービス介助士」とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/3 ページ)
鉄道会社で「サービス介助士」の導入が進んでいる。2015年12月に、阪神電鉄のすべての駅係員、車掌、運転士がサービス介助士の資格を取得した。サービス介助士とはどんな資格で、なぜ鉄道会社に注目されているのだろう。
サービス介助士とは何か
サービス介助士は国家資格ではない。民間団体が認定する資格だ。認定組織は「公益財団法人 日本ケアフィット共育機構」という。この組織は1998年にサービス介助(ケアフィット)という考え方を広めるための任意団体として発足、1999年に「特定非営利活動法人日本ケアフィットサービス協会」として東京都知事認定を受けた。資格創設は2000年で「サービス介助士2級検定取得講座」を始めている。2級から始まった理由は、上位資格の開発を目指したからだという。
しかし現在は2級の呼称を外し、「サービス介助士」「准サービス介助士(旧準2級)」「ジュニアケアフィッター(旧3級)」となった。介護福祉士(介護士)との違いは、国家資格ではないこと、専門職ではないことだろう。資格そのものは職となりにくいけれど、現在の職の付加価値となる。TOEIC(国際ビジネスコミュニケーション協会)、CCNA(ネットワーク エンジニア向け認定プログラム:シスコ)のように、社会的に認知された資格と言える。
サービス介助士の主旨は「高齢の人や障がいがある人を手伝う時の“おもてなしの心”と“介助技術”を学び、相手に安心していただきながら手伝いができる人」である。具体的には車いす利用者、視覚、聴覚、そのほかの体の不自由な人に対して、正しい知識を持ち、安全かつ安心していただくサービスができる人、となる。
つまり「体の不自由な人への思いやりができる」を資格として認定したわけだ。私は当初「ここの思いやりの問題で、わざわざ資格なんて大げさだ」と思った。しかし「思いやり」は個人差がある。気付く人、気付かない人、合わせて、正しい知識がある人とない人では大きな差になる。資格は1つの基準となり、行動の裏付けとなるだろう。
車いすを扱う機会は少なくても、例えば、台車に置き換えて考えてみよう。台車で段差を上下するとき、慣れない人は常に前向きで進もうとしてつまずき、荷物を崩してしまう。台車の扱いに慣れた人、例えば、宅配便のドライバーを見てみると、段差では後ろ向きだ。上る時は取っ手を引き上げやすいし、下る時は荷物が手前に寄るため落としにくい。
こうした「ちょっとした気遣い、技術」はどんな分野にもある。たいていは先輩から後輩に受け継がれていくけれど、個人差のある先輩からは個人差のある技術しか会得できない。荷物を扱う場合は「失敗から学んでいく」でいいけれど、お客さま相手では通用しない。車いすの場合は特に「乗っている人の安心」が重要だ。慣れない人に車いすを押されると、かえって不安になってしまう。鉄道の現場はお客さまの命を預かっているから、正しい知識で対応してほしい。
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