鉄道業界に急増する「サービス介助士」とは?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/3 ページ)
鉄道会社で「サービス介助士」の導入が進んでいる。2015年12月に、阪神電鉄のすべての駅係員、車掌、運転士がサービス介助士の資格を取得した。サービス介助士とはどんな資格で、なぜ鉄道会社に注目されているのだろう。
首都圏のすべての鉄道会社で導入済み
サービス介助士を導入した鉄道会社。このほかに、航空・空港関連・バス・タクシーなど運輸機関、学校・教育機関、観光・レジャー・宿泊施設、金融・証券・保険関連、小売・流通関係、官公庁・地方公共団体・公益法人、自動車関連会社、通信・通信機器販売、福祉・医療・病院関連、警備・不動産・ビル管理・建設関連、食品・外食関連、人材派遣・人材教育など多岐にわたる(出典:日本ケアフィット共育機構)
冒頭では阪神電鉄の例を挙げた。全駅員、全乗務員の資格取得は素晴らしい。しかし、調べてみると、この資格は阪神電鉄だけではなく、鉄道業界でかなり浸透しているようだ。JR東日本は2005年から資格取得に取り組んでおり、2015年5月には資格取得者が1万人を超えた。業種は接客部門だけではなく、企画部門、設備関係など広範囲にわたっている。
日本ケアフィット共育機構によると、資格取得者は現在約13万人。JR東日本だけで1万人だから、鉄道業界に取得者が多いと思われた。その点を伺うと、有資格者の約44%が鉄道関連企業で、航空、バスなど運輸業も多いとのことだ。
サービス介助士の資格は個人でも取得できる。資格取得を申し込むと、テキスト1冊と提出課題問題集が提供される。受講料は4万1040円だ。在宅学習で6カ月以内に課題を提出して課題を提出。合格した後は12時間の実技教習があり、検定試験に合格して資格取得となる。資格の有効期限は3年間で、更新費として2160円がかかる。
企業が社員に奨励するとなると、なかなか大変なことだ。費用も然ることながら、現場の業務にも負荷がかかる。鉄道は年中無休、社員はシフト勤務だ。ジョブローテーションに勉強や実習の機会を組み込む必要がある。それでも鉄道会社がサービス介助士に注目し、積極的に取り組んでいる。なぜだろうか。
鉄道の現場では動力車運転免許、無線など、古くから資格と業務が結び付いていた。資格取得は正しい業務、判断の裏付けとなり、仕事に対する自信を生む。そんな環境が「接客にも資格を」という考え方になったと考えれば納得できる。
サービス介助士は、今まで個々の「気遣い」「ノウハウの伝授」に任せていた「接客」について、正しい知識と技術を学ぶ機会となっている。資格を取得すれば、一定の水準をクリアしたと客観的に分かる。資格と名札の表記はサービスの可視化だ。そこが鉄道会社の「サービス品質を上げたい」という目的と合致した。
日本ケアフィット共育機構の活動主旨は「高齢者や体の不自由な人が積極的に外出し、社会参加する機会を作りたい。そのためには社会環境を整備したい」とのこと。車いす用スロープやエレベーター、電光掲示板、視覚障がい者誘導用ブロックや点字案内など、ハードウェアの整備は進んでいる。しかしそれで終わりではいけない。人の「おもてなし」ソフト面の整備も必要だ。鉄道会社もソフトの整備を認識し、課題として取り組もうとしていた。両者の目的は合致している。日本の鉄道サービスは進化し続けているのだ。
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