「お客様第一」がスローガンの会社は、なぜ「お客様第一」でないのか:こだわりバカ(2/5 ページ)
企業の経営理念やスローガンを調べてみると、「お客様第一」をよく目にする。しかし、そうした企業は本当に「お客様第一」を実践しているのだろうか。「実践できていない」理由について、筆者の川上徹也氏は……。
「お客様第一」は相当な覚悟がないと達成できない
例えば、経営理念でよく見かける「お客様第一」というフレーズを考えてみよう。現実に、本当の意味での「お客様第一」を実践できている企業がどれだけあるだろう? 実際はほとんどないのが実態だ。
そもそも「お客様第一」という考え方は、高度成長時代に「作りたい商品を作って販売すれば勝手に売れる」という売り手第一主義の反動から生まれたものだ。企業が売りたいモノを作って売るのではなく、お客さんの要望を聞いてそれに合わせた商品を作っていく、という考え方だ。
10年くらい前までであれば、それも一定の効果はあった。例えば、現在の中国で「お客様第一主義」を本気で掲げる会社があったと考えてみてほしい。多くの企業のアンチテーゼとして、その会社の存在感を感じることのできるスローガンになるだろう。
しかし今の日本であればどうだろう? 「お客様第一」は、「とにかくお客さんの言うことは何でも聞きます」という意味になってしまっている。そんなことは現実的に不可能だ。
当たり前だが、企業が存続していくのは大変厳しい。中小ならばなおさらだ。キレイごとだけでは成り立たない。自社がピンチの時に、本当にお客さんのことを第一に考えられるだろうか? 基本、人間は何よりもまず自分のことを一番優先して考えるものだ。
そんな時、経営陣から「お客様第一」ではない指令を受けた従業員は、経営理念は絵空事だと感じるだろう。その感情はお客さんにも必ず伝っていく。そんな企業の商品を買ったりサービスを受けたお客さんは、その会社を「嘘つき」だと思うようになる。まさに負の連鎖になっていくのだ。
つまりこういうことである。「お客様第一」を実践するには、経営陣に相当な覚悟と揺るぎない信念がないと達成できない。経営陣の覚悟や言動をみて、徐々に従業員に理念が浸透していく。そしてようやくお客さんに伝っていくものなのだ。
しかし多くの会社はその覚悟がないまま、何となく経営理念として掲げてしまっている。むしろ「お客様第一」というフレーズを経営理念やスローガンで掲げている会社ほど「お客様第一」が実行できていないことが多いというのが偽らざる印象だ。覚悟がないのに掲げているのは、「言行不一致コピー」の代表例で、「空気コピー」よりも罪が思い。まさに「害毒コピー」だ。即刻やめた方がいい。
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