謎に包まれたトヨタの改革:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
昨年末に発売となった4代目プリウスは、トヨタの新たなクルマ作り改革であるTNGA(Toyota New Global Architecture)のデビュー商品となった。これは単にクルマ作りの手法が変わっただけでなく、トヨタの組織そのものにも変革を起こした。なぜそうしたことが実現できたのだろうか?
リニアリティ 操作と結果の予測
唐突だが、シャンパンの栓を抜くときのことを思い出してほしい。針金を外して栓を緩めていくと、あるところまで固くて緩まなかった栓が急に「ポンッ!」と飛ぶ。人は基本的にこういう唐突な変化が怖い。怖いことをエンターテインメントととらえる場合もあるが、それはまあ例外だと考えるべきで、原則的には人は自分が起こす現象を予測してコントロールしたいのだ。
予測と結果が結び付かない例は無数に挙げられる。例えば、水道の蛇口。昔ながらのねじ式の場合、予想に反した水量がいきなり流れ出ることはないから安心して操作できるが、レバー式の場合、時にちょっと動かしただけで唐突に勢い良く水がほとばしることがある。一度そうした経験をすると「また急に一気に水が出るのではないか?」と思ってレバーを操作しなければならず、操作そのものにストレスを感じる。
ポテトチップの袋を開けるときはその反対の現象が起こる。両側からつまんで引っ張ったとき、妥当な力で徐々に開いてくれればよいが、時にやたらと接着が強く、力を入れても開かない袋がある。こういう場合、人は徐々に力を強くしていくが、大抵の場合、臨界点を超えると一気に袋が破れ、中身をブチまけてしまうことになる。人には学習能力があるので、次に接着の強い袋に出会ったとき、その袋を開けるのがストレスになる。
つまり、シャンパンの栓は変化が唐突かつ、コントロールしにくいタイミングで起こり、水道のレバー式蛇口は予想に対して低すぎる操作力(または操作量)で過大な結果を起こし、ポテトチップの場合は過大な操作力を必要とするため、操作がオーバーシュートしてしまう。どのケースも適正な操作力で結果を予測通りマネジメントすることが難しい。
このように、操作と結果が予測した状況と結び付かないものは設計がダメなのだ。本来人は直感的に反応のタイミングと量を予測でき、それに適正な操作ができるはずなのだ。そのためには変化が連続的かつ比例的に起きなくてはならない。専門用語ではこの関係性をリニアリティという。上に挙げた3つの例はどれも操作と結果の関係のリニアリティが足りていないか、全くない状態なのだ。
クルマであれば、重要な3つのインタフェース、つまりステアリング、アクセル、ブレーキの3つのリニアリティが求められる。その基本に則って、プリウスは3つのインタフェースとクルマの動きの関連性を見直した。そうすることによって「運転し易いクルマ」を目指したのだ。
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