「下流老人」「老後破産」報道の正しい受け取り方:スピン経済の歩き方(3/5 ページ)
「下流老人」「老後破産」といった言葉をよく目にするが、こうしたネガティブなワードを私たちはどのように受け止めればいいのか。筆者の窪田氏は……。
ショッキングな響きだけが「暴走」
そう言うと、なにやら「下流老人」や「老後破産」にイチャモンをつけているように聞こえるかもしれないが、そんなつもりは毛頭ない。8年ほど前、独居老人の孤独死現場をよく取材した。普通の人が下流老人へと転落してしまうという問題は確かに存在している。そういう意味では、「下流老人」も「老後破産」もなにも間違ったことは言っていないのだが、これらの言葉を生み出した方たちの「思惑」ともはや関係なく、ショッキングな響きだけが「暴走」を始めていることが、問題ではないかと申し上げているのだ。
例えば「下流老人」の生みの親である藤田氏は、ハフィントンポストのインタビューでこのように述べている。
重要な社会問題だと分かりやすい形態で提起して、社会を揺らしたいと思っています。だからこそ、本には「下流老人」という刺激的なタイトルを付けました。多くの人に気づいてほしいのです。ある種、戦略的にこの言葉を作ったのですが、人々に興味を持ってもらえたようです。(2016年1月13日)
つまり、人々の注目を集める、世論を喚起するという目的のため、あえて煽(あお)り気味のタイトルをつけたとおっしゃっているのだ。
これは政策提案などを行う人々の間では「王道」ともいえるテクニックで、ガバメントリレーションズやロビイングを生業とする広告代理店などでは、「世論形成コミュニケーション」なんてものを売り物にもしている。行政や議員へのアプローチを行う際、メディアうけするセンセーショナルなワードをつくりだして世論を喚起して「外堀」から埋めようという時によく用いられる。
藤田氏は生活困窮者の支援活動に取り組むかたわらで、厚生労働省社会保障審議会特別部会委員として政策提言もされている。要は、国のセーフティネットを充実したい一心で、物議を醸す言葉をつくりだされたわけだ。
といっても、口で言うほど簡単な話ではない。藤田氏が言う「社会を揺らす」ほど昇華(しょうか)できたものは、「派遣村」「無縁社会」「戦争法案」などほんの一握りしかない。
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