大改革が生んだボルボ新型XC90のシャシー:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)
日本でも先月発表となったボルボのフラッグシップモデルXC90。“微妙”なクルマだった先代から大規模な構造改革を実行。エンジン&シャシーに1兆3000億円もの投資を行ったという。
2016年1月27日、ボルボはフラッグシップモデルXC90を発表した。と言ってもそれは国内の話で、欧州や米国では既に昨年発売されており、ネットでいくらでも海外の情報が入ってくる今、若干の今さら感はある。
ラインアップ最大の堂々たる体躯(たいく)を持つXC90の主要マーケットは、常識的に考えて北米であり、サイズ的に日本でポンポン売れるモデルではない。
新型XC90に対する先行各国での評判は上々で、特に米国ではさまざまな賞を受賞している。2015年の推移を見る限り、販売台数的にも成功で、生産が追いつかない状態だという。ボルボによれば「クルマの奪い合いです」。それではと国内販売の目標台数を尋ねると「公式にはアナウンスしていません」とのこと。ポテンシャルで見て、年間1000台くらいの線だろう。あとは供給次第というところだと思う。
SUVマーケット対決の構造
さて、そもそも論に戻れば、SUVのマーケットとはどういうものだろうか? そのスタートラインは北米にある。本来はピックアップトラック派生の乗用車なのだが、セダンと比べ、そのカジュアルデザインの新しさと室内空間の豊かさが評価されて、後に大きなジャンルに発展した。
SUVは何とも実態のつかめないクルマで、ハードウェアの構成要素では明確に定義できない。ただし、長らくそこにオフロードでの一定の走破性能が期待されていたのも事実だ。スポーツユーティリティビーグルと言う名前の通り、スキーやサーフィンなどで雪路や砂浜などに分け入る可能性があったからだと思われる。さらに北米ではキャンピングカーをけん引する役割もあり、そもそもがトラックベースなのも加わってタフさが求められる。その結果、大きく重い。当然、加速性能や旋回性能は鈍重になるわけだ。
しかしながら、SUVの支持が拡大するにつれ、そうしたアウトドアライフのツールでなく、ごく普通に乗用車として使われることが多くなった。そうなると軽快さを求める比率が上がっていく。その結果、スタイルだけは自由さを象徴するSUVで、中身はもっとゴージャスで快適な乗り心地を求めるというニーズが生まれた。
そこに登場したのがBMW X5である。5シリーズセダンのシャシーをベースにかさ上げして作られたX5は、それ以前のSUVとは隔絶した良路性能を持っていた。こうしてX5は北米で一大勢力となったSUVをトラック・ベースからより洗練されたセダン・ベースへとシフトさせ、国際的な商品として再定義する役割を果たした。
悪路に踏み込まない都会派のSUVという現実的商品としてX5は生まれ、SUVを高付加価値、つまりメーカーにとって儲けの大きな商品へと進化させた。以後、X5は世界の自動車メーカーからSUVのベンチマークとして開発目標にされていくのである。ただし、SUVは人によって求めるものが違うので、X5だけが最適解ということにはならない。例えば、この高級SUVマーケットにはクロスカントリーの側からレンジローバーが加わって一大勢力を築いている。トラック・ベース、セダン・ベース、クロカン・ベースという具合に、SUVには非常にスイートスポットの広い商品群ができ上がっていったのだ。
関連記事
- ミニバンやSUVをどう分類するか?
クルマの分類として「BセグSUV」といったセグメントがあるが、旧来のセグメントの枠にミニバンやSUVを一緒くたにしてしまうのはちょっと待ってほしい。 - マツダが「CX-3」で次世代スタンダードを狙う戦略
全車ディーゼルのみという思い切ったラインナップも話題のマツダ「CX-3」。同社が初めてコンパクトSUV市場へ投入する商品である。マツダはどんな戦略でCX-3を投入するのか? 関係者へのインタビューからひもといてみよう。 - 自動車の「セグメント」とは何か? そのルーツを探る
国内外のメーカーを問わず、自動車を分類ときに使う「セグメント」。そもそもこれが持つ意味や基準とは一体何なのだろうか――。 - どうなる日本? 新時代を迎える自動運転技術
通常の交通環境下で、一般のドライバーが乗るクルマを自動運転させる――ボルボが本格的に、自動運転車の普及に取り組み始めた。スウェーデンは国をあげてこのプロジェクトをサポートしているが、日本の自動車メーカーはこの流れについて行けるのだろうか。 - 「週刊モータージャーナル」バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.