大改革が生んだボルボ新型XC90のシャシー:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
日本でも先月発表となったボルボのフラッグシップモデルXC90。“微妙”なクルマだった先代から大規模な構造改革を実行。エンジン&シャシーに1兆3000億円もの投資を行ったという。
XC90の立ち位置を点検する
そういうマーケットを振り返って見ると、先代のXC90は微妙なクルマだった。デビューは2002年。ボルボがフォード・グループに買収されたのが1998年だから、ほぼフォード傘下で開発されたクルマだったはずだ。思想的にも米国の影響が強い。スペースユーティリティこそ高かったが、肝心の走りの方はそれまでのSUVの流れを引いてパッとしない。運悪く、デビューの2年前にBMW X5が登場してしまった。加えて、XC90と同じ年にX5のライバルであるポルシェ・カイエンもデビューしている。まさに潮目の変わり時に登場してしまったのだ。
そういう不利なスタートを切りながら、XC90は10年以上に渡ってボルボのフラッグシップとして現役を張り続けた。理由として大きいのは価格とユーティリティだ。X5やカイエンとはサイズで競合しても価格では競合しない。新型でもXC90は774万円。BMW X5とポルシェ・カイエンがともに859万円でガチンコ勝負をしている戦場に、それなりに買いごろ感のある価格を付けてきている。
価格以外の違いは、XC90は全モデル3列7人乗りであることだろう。3列7人乗りを求める層は常に一定数いる。しかし7人乗りSUVと言っても、3列目シートがそもそもオプションや特定グレードのみになっているケースは多く、それらの場合、3列目シートはほとんど補助席として割り切られている。3列目シートの使用頻度から言えば、それは多くのユーザーにとって正しい割り切りだと思うが、中には常時3列シートを使うのだという人もいるだろう。
その場合、3列目が子どもの定位置なのかどうかにもよるので、一概には言えないが、筆者の見解としては、フル7シーターと言えるクルマはサイズの制約が少ないフォードやGMなど米国のドメスティックブランドにほぼ限られ、同等の居住性を求めれば、トヨタ・ランドクルーザー(8人乗り)とXC90が米国製以外の選択肢だ。そういう意味では、SUVのマーケットにおいて全モデルが3列7人乗りだという点はXC90の際だった特徴の1つだと言えるだろう。
さて、以上のポイントからX5とカイエンを中心としてSUVマーケット俯瞰(ふかん)的に眺めたとき、XC90は商品の立ち位置を少しズラしているとも言えるし、歴史的に言えばボルボが当初狙った本来の北米式SUVとは少し違うところで、BMWとポルシェの戦争が勝手に始まって激戦区になっただけで、ボルボはその戦術地点を変えていないとも言える。
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