大改革が生んだボルボ新型XC90のシャシー:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
日本でも先月発表となったボルボのフラッグシップモデルXC90。“微妙”なクルマだった先代から大規模な構造改革を実行。エンジン&シャシーに1兆3000億円もの投資を行ったという。
新型シャシーは「スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー(SPA)」と命名された。ネーミングの通り、スケーラブル、つまり拡大縮小が自由なシャシーで、今後の製品開発で、衝突安全も含めたさまざまな実験成果を共有できるため、長期的なコスト低減効果が大きい。また、XC90で到達した安全性能は以後全てのモデルにローコストに反映できるということでもある。ボルボは「SPAは自動運転を見据えて開発した」とコメントしており、その面でも長期的戦略シャシーという位置付けになっている。
こうしたスケーラブル・シャシー・コンセプトは、2000年代の頭に当時フォード・グループ傘下のアストンマーチンが打ち立てたコンセプトで、恐らくはフォード・グループ内で一定の情報共有があったのではないかと思う。ボルボやマツダを見ていると、フォードが当時の傘下の各ブランドに与えた影響は多大で、フォード門下生の躍進がそれを裏付けているように思う。
ボルボのシャシー構造
ボルボとシャシーと言えば、そこに求められるのはスポーツカーのような卓越したハンドリングではない。大事なのは安全だ。それを期待するからこそボルボを選ぶ。ボルボ自体は、必ずしもそれだけで良しとしておらず、ハイパフォーマンスもボルボの新しい価値だと言いたい様子が見受けられるが、パブリックイメージはそう簡単に変わらない。
さて、シャシーに求められる安全性とは何かと言えば、基本となるのは衝突時に生存空間がきちんと維持されることだ。そのためには2つの要素が必要だ。直接的に生存空間を維持する役目を果たすのはキャビン部分で、ここがつぶれてしまっては元も子もない。特に重要なのは車室とエンジンルームの隔壁(バルクヘッド)と全方位の窓枠(ピラー)だ。衝撃を多くの部材にうまく分散しながら支え、変形を最低限に抑える。そして、そのためにはクルマの前後に意図的に変形して衝撃を吸収するエリアを設ける必要がある。この衝撃吸収ゾーンがなければどんなに丈夫に作ってもキャビンが保たないからだ。
ボルボの場合、硬度の異なる5種類の鋼板を最適に配分してこの強度バランスを構築している。バルクヘッドとピラーには最強硬度のウルトラ高張力鋼板を配置している。XC90で特徴的なのはリヤセクションの構造で、Cピラー以降を衝撃吸収ゾーンとして使うために、意図的に柔らかい鋼板を使用している。クルマを横から見たときのピラーは、前からABCDと4つある。そのうちABCの3つは上述のウルトラ高張力鋼板で構成されているが、テールゲート部分のDピラーは最も強度の低い普通鋼で作られている。つまり、ここをつぶして衝撃を吸収し、Cピラーから前を保護するという思想でキャビンが作られているのだ。3列7人乗りを基本に据えた以上、3列目の安全性をしっかり担保しなくてはならない。だからシートはこの衝撃吸収ゾーンまで後退してスライドできないように作られている。
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