大改革が生んだボルボ新型XC90のシャシー:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
日本でも先月発表となったボルボのフラッグシップモデルXC90。“微妙”なクルマだった先代から大規模な構造改革を実行。エンジン&シャシーに1兆3000億円もの投資を行ったという。
ボルボのエンジニアによれば、こうした設計によって2列目と3列目の安全性は完全に同じ水準に保たれているという。3列シートを持つクルマの中には、リヤウインドーに後頭部が接するくらいまでシートを下げられるクルマがあるが、そういう設計なら3列目のシートは衝撃吸収ゾーンになり生存空間は保たれない。引き替えに足元の広々した空間が手に入るだろうが、その代償はあまりにも大きい。
XC90の購入を考えている人は3列目シートに座ってみてほしい。シートは座面形状も背もたれの角度もかなり良好だが、膝前の空間は狭い。頭上もギリギリだ。ボルボのエンジニアによれば、3列目の安全性が設計通り発揮されるには3列目の乗員の身長は170センチ以下でなくてはならないという。元々、乗用車としてのサイズに3列のシートを搭載するのは相当に無理があるのだ。XC90を見るとその無理の中で最大限の努力をした形跡が見て取れる。
筆者はXC90の最大の見所がこの3列目に凝らされた安全性の徹底ぶりだと感じる。後はそれと引き替えに狭い空間を受け入れられるかどうか、それが重大な分岐点になるだろう。
実はXC90にはこれまでにない革新的な安全機能が加わった。今回はボディ構造という基本の話をしたが、次回はシート構造によって脊髄(せきずい)を保護するという全く新しい仕組みについて解説したい。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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